この頃のDIAMOND MOONは仮店舗で現在の場所と違い赤坂通りから一つ路地を入ったビルの地下一階にあった。
階段を降り黒い扉を開けるとサブ2ヴァージョンの♪真っ赤なフィアットが聴こえてくる。
「わぁっ!」
あまり広くは無いがYAZAWAな雰囲気一色の店内に歓喜の声を上げる麻理子。
入って左側のバー・スペースは夕方5時開店なので誰も居ないが右側のグッズ売り場は日曜日という事もあって中々の賑わいである。
壁に飾ってある様々なYAZAWAグッズに麻理子は暫し見惚れた。
ビーチ・タオルは勿論、フェイスタオル、ステッカー、Tシャツ、CD等、こうして見ると豊富なグッズ類とバラエティに富んだそのデザインは壮観であった。
ふと麻理子の視線が右手前のレジカウンターの壁に掛かっているTシャツに止まる。
黒地にE.YAZAWAのロゴが入っておりロゴの色は赤、黄と2種類ある。
「あの、すみません」
「いらっしゃいませ」
「そこのTシャツってお幾らですか?」
「申し訳ありません。こちらは非売品なんですよ」
「えっ?」
「それはポイントと引き換えのグッズなんだよ」と裕司が説明する。
DMでグッズを買うと値段に応じてポイントが付き貯まったポイント数に応じて色んな非売品グッズと交換が出来る。
「そうなんだぁ。残念」
「ちょっと待って」と裕司が財布を取り出し中からポイントカードを数枚、取り出した。
この頃は紙のスタンプカードで裕司は殆ど引き換えをしないのでTシャツ一枚分位のポイントは有に貯まっていた。
「どっちがいい?」
「えっ?」
「プレゼントするよ」
「そ、そんな、悪いよぉ」
「いいんだ。折角、一緒に来てくれたんだからこれ位させてよ」
躊躇するも必要以上に遠慮するのは逆に失礼と思った麻理子は裕司の好意に甘える事にした。
「それじゃ……赤で」
カード数枚をカウンターのトレイに置く裕司。引き換えにTシャツの入った袋を受け取る。
「はい」
「ありがとう」
嬉しそうな麻理子に裕司の表情も綻ぶ。
「でも折角、裕司君が貯めたポイントなのに…」
「いいんだよ。俺的に引き換えたいグッズって今の所無いし」
「だけどまた貯めるの大変じゃない?」
「飲みに来れば簡単に貯まっちゃうよ」とバー・スペースを指差す裕司。
この頃のDMはバーでの飲食代金もポイント対象でボトルキープもやっていたので(現在は廃止)意外にポイント貯蓄は容易であった。
裕司も2度程ボトルキープをやったが来る時は一人では無く敏広達と来店するので一晩で空けてしまうのだった。
その後、2人はグッズを見て周り麻理子は色々と目移りしながらもビーチタオルとフェイスタオルを一枚ずつ、それと2002年の一度目のクラッシック『VOICE』のDVDを購入。
この時、また裕司が支払いを買って出たが流石にそれは遠慮した。
そして2人はDMを後にすると最寄のスターバックスで休憩した後に家路に着いた。
調布駅で降りると
「今日はありがとう。楽しかったぁ!」と明るい笑顔の麻理子。
「俺の方こそありがとう!」
「Tシャツもありがとう。大切に着るね!」
暫く無言で見詰め合う2人。
「あ…それじゃ改札まで見送るよ」
「ううん。今度は私が見送る」
「えっ?」
「だって朝は、わざわざパルコ前まで来てくれたんだもん。帰りは私に見送らせて」
裕司はこの時、待ち合わせ場所を赤坂駅にしなくて本当に良かったと思った。
橋本行きの車両に裕司が乗り込みドア付近で麻理子の方に振り返る。
「気をつけてね」
「うん。麻理子ちゃんも」
「ねぇ」
「ん?」
少し間が空く。
「今度は……遊園地とか行きたいなぁ」
恥じらいながら強請る麻理子。
今度、つまりは次があるとゆう事だ。
「う、うん!判った!!」
周囲を気にして声を抑えようとしたが感情の高ぶりは抑える事が出来なかった。
発車のベルが鳴りドアが閉まる。
麻理子の表情が少しだけ寂しげになった。
互いに手を振る二人。
麻理子は列車が見えなくなるまでずっと見送ってくれていた。
祭りの後の様な寂しさと同時に今日のデートが次に繋がった事の喜びが湧き上がる。
裕司は空いてる座席に腰掛けた。
携帯を取り出し麻理子宛に送るメールを作成し始める。すると先に麻理子の方からメールが届いた。
素早く開封する裕司。
今日のお礼と感想が絵文字入りで可愛らしく書かれている。
中でも裕司の眼に止まったのが次の文面であった。
『今日は私の為にオシャレしてきてくれてありがとうすっごく似合ってたしカッコよかったよ
』
裕司は今朝の事を改めて思い出し遥子達のお節介に感謝した。
同時に自分自身がそうゆう方面に全くと言っていい程、無頓着であった事を、この時初めて反省した。
『持つべき物は友、とゆうよりYAZAWA仲間だな!』
裕司はYAZAWA仲間の有難味をしみじみと感じていた。
だが月末、裕司宅のポストにアルテミスとナンシー達の店から高額の請求書が届くと「あんな奴等、仲間じゃないっ!!」と絶叫するのであった。
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