「千晶ちゃん」
「私の事ならもういいです」
眞由美の方に近づいてゆく千晶。
「いいのか本当に?」
「遠慮する事なんかないぜ」
「何なら俺達がきっちりケジメつけさせてやるよ」
次々に千晶に声掛けする男達。
男達なりの千晶に対する気遣いであった。
「いいんです。それに…」
言葉に詰まる。
「私、もう忘れたい………」
そのまま千晶は、また泣き出してしまった。
切ない沈黙が辺りを包む。
「そっか。…ごめんね」と眞由美。
千晶は首を大きく横に振り再び眞由美の胸に顔を埋めた。
「すみませんでした!すみませんでしたぁ!」
正三の頭を押え付けながら土下座を続ける正二。
「決着着いたわね。それじゃ戻りましょう」
真純が特殊警棒を縮め皆が自分の車の方へと戻っていく。
「この子は俺が送っていこう」と拳斗が葵の送迎を引き受ける。
「私も同席していいですか?」と里香。
「その方が良いね。頼むよ」
「僕も行きます」と永悟。
遥子と麻理子がランクルの後部座席に永悟と千晶、そして葵を促す。
「遥子ちゃんと麻理子ちゃんは私の車に乗っていきなさいよ」と真純。
「すみません」
そんなやり取りがされている中、正三は頭を伏せながら何やらブツブツと呟いていた。
「おい、どうしたんだお前」と正二が顔を覗き込む。
「……るせねぇゆるせねぇ許せねぇ!俺に恥かかせたあの女だけは絶対許せねぇ!」
「お、おい正三!」
「うわあぁああああああああああ!!」
正三は壊れた。そして突然、木刀を持って立ち上がり眞由美の方へと向って走りだした。
「ば・・・正三!止めんかぁ!!」
皆、一斉に足を止め何事かと注目する。
バイクに跨ろうとする眞由美に突進してゆく正三。
木刀を両手に持ち横に引く。仕込み刀であった。
「眞由美さん!!」
「チッ!!」
「キャーーーーーーーーーーーッ!!」
遥子が思わず叫び拳斗が舌打ちしつつ眞由美の下へと走り出す。
麻理子の悲鳴が響く中
「うぉりゃあああああああ!!」
鞘を捨て袈裟懸けで眞由美を切り付けようとする正三。
だが眞由美は身構え一つせず正三の顔を睨み付けた。
「!!」
一瞬、正三の動きが止まった。そして眞由美が右の拳を放とうとした瞬間
ガコッ!!
何かが正三の後頭部に直撃した。
弾かれる様に眞由美の右斜めに倒れこむ正三。
ドサッ!
ピクピクと痙攣しながら動かない。
眞由美の足元にその直撃物が転がる。
それは古びた硬式の野球ボールであった。
「見せ場を取っておいてくれて、おおきに」
声がする土手の上の方に皆の視線が向う。
カワサキZ2に跨った愛美と洋助がそこに居た。
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