ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆059

「千晶ちゃん」
「私の事ならもういいです」
眞由美の方に近づいてゆく千晶。
「いいのか本当に?」
「遠慮する事なんかないぜ」
「何なら俺達がきっちりケジメつけさせてやるよ」
次々に千晶に声掛けする男達。
男達なりの千晶に対する気遣いであった。
「いいんです。それに…」
言葉に詰まる。
「私、もう忘れたい………」
そのまま千晶は、また泣き出してしまった。
切ない沈黙が辺りを包む。
「そっか。…ごめんね」と眞由美。
千晶は首を大きく横に振り再び眞由美の胸に顔を埋めた。
「すみませんでした!すみませんでしたぁ!」
正三の頭を押え付けながら土下座を続ける正二。


「決着着いたわね。それじゃ戻りましょう」
真純が特殊警棒を縮め皆が自分の車の方へと戻っていく。
「この子は俺が送っていこう」と拳斗が葵の送迎を引き受ける。
「私も同席していいですか?」と里香。
「その方が良いね。頼むよ」
「僕も行きます」と永悟。
遥子と麻理子がランクルの後部座席に永悟と千晶、そして葵を促す。
「遥子ちゃんと麻理子ちゃんは私の車に乗っていきなさいよ」と真純。
「すみません」


そんなやり取りがされている中、正三は頭を伏せながら何やらブツブツと呟いていた。
「おい、どうしたんだお前」と正二が顔を覗き込む。
「……るせねぇゆるせねぇ許せねぇ!俺に恥かかせたあの女だけは絶対許せねぇ!」
「お、おい正三!」
「うわあぁああああああああああ!!」
正三は壊れた。そして突然、木刀を持って立ち上がり眞由美の方へと向って走りだした。


「ば・・・正三!止めんかぁ!!」
皆、一斉に足を止め何事かと注目する。
バイクに跨ろうとする眞由美に突進してゆく正三。
木刀を両手に持ち横に引く。仕込み刀であった。
「眞由美さん!!」
「チッ!!」
「キャーーーーーーーーーーーッ!!」

遥子が思わず叫び拳斗が舌打ちしつつ眞由美の下へと走り出す。

麻理子の悲鳴が響く中

「うぉりゃあああああああ!!」
鞘を捨て袈裟懸けで眞由美を切り付けようとする正三。
だが眞由美は身構え一つせず正三の顔を睨み付けた。
「!!」
一瞬、正三の動きが止まった。そして眞由美が右の拳を放とうとした瞬間


ガコッ!!


何かが正三の後頭部に直撃した。
弾かれる様に眞由美の右斜めに倒れこむ正三。


ドサッ!


ピクピクと痙攣しながら動かない。
眞由美の足元にその直撃物が転がる。
それは古びた硬式の野球ボールであった。


「見せ場を取っておいてくれて、おおきに」


声がする土手の上の方に皆の視線が向う。
カワサキZ2に跨った愛美と洋助がそこに居た。

つづく

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