ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆006

頬を撫でる冷たい風が気持ちいい。


真冬の夜だとゆうのにコートを着る気にならない程に体が火照っている。
10年前とは違う今まで生きてて味わった事の無い感覚。
何もかもに圧倒された。今夜の感想を率直に言えば、こんな感じである。


マグマの様な熱気と深海の様な静寂、この相反する二つのイマジネーションを併せ持ったアーティストのパフォーマンス。
それと表裏一体となり途轍もない一体感を醸し出すオーディエンス。


生涯2度目のコンサートだが、こんな体感が出来るコンサートなど他には無いんじゃないかと麻理子は直感的に思った。


それから例のタオル。


始めはコンサートに、あんな大きなタオルなんて奇妙に思えたし、そんなに汗をかく物なのかとゆう突飛な考えまで頭に浮かんだが、そのタオルが一斉に武道館全体に舞った瞬間は何処か感動的だった。
麻理子はタオル投げこそしなかったが、その時の高揚感は遥子や他のオーディエンス達と同じであった。


独特の気だるさを心地よく感じながら
「ねぇ、お腹空かない?」と麻理子。
「そうね」
遥子はクスクスと笑い始めた。
「何が可笑しいの?」チョット膨れる。
「だって10年前と同じ事、言ってる」
「そうだっだ?」
靖国通りに面した歩道で二人は右に曲がった。物凄い人の数で混み合ってるが適度に流れている。
「調布まで我慢できる?」と遥子。
「んん~自信ない」
「なら、とりあえず新宿まで出ましょう」
「賛成!」
麻理子の子供の様な反応に遥子はまたクスクスと笑いだした。
「だから何で笑うの?」
「何でも無いわ」


《ホント相変わらず。でも良かった。少しは気分転換が出来た様ね》


約三週間前、遥子が久しぶりに電話を入れた時に麻理子は泣いていた。
原因は彼氏との破局。
余りに酷く落ち込んでた麻理子に何か良いカンフル剤は無いものかと思っていたら偶々、今日のチケットが1枚、余る事になり、それを譲ってもらった遥子が半ば強引に麻理子を武道館へ連れてきたのだが思いの外、効果は覿面だった様だ。


「今日はありがとう」
「えっ?」
麻理子の突然のお礼に遥子が聞き返す。
「ホント楽しかった」
麻理子の屈託の無い笑顔を遥子は久しぶりに見た。
「よかった」
「また今度、連れて来てくれる?」
「えぇーーーーっ?」
これは遥子も予想外であった。
「ダメ?」
「いや、ダメじゃないけど~そんなに良かった?」
「うん!」
「なら来年、また誘うね」
「ありがとう!」
「もしかして眞由美さんが言ってた様に麻理子も永ちゃんに惚れちゃった?」
「うふふ、そうかも。 でも……」
「ん?」
「勿論、矢沢さんもカッコよかったんだけど、矢沢ファンの人達ってみんな素敵だなって思って」
「うんうん」


コンサート終了後に麻理子達が会場の外に出た時、車椅子に乗ったお客さんを目にした。
2階席の出口は階段だけでスロープ等の設備は無い。
当然、付き添いの人だけでは下まで降りていくのは余程の怪力の持ち主でない限り不可能である。
どうやって降りるのだろうと思っていたら、いわゆるギンギンの矢沢ファンが自然に集まって車椅子を持ち上げだしたのだ。
それぞれが互いに声を掛け合いながら呼吸を合わせて、ゆっくり、リズム良く降りてゆく姿から車椅子に乗った人に出来るだけ負担を掛けない様にする為の配慮が伺える。
そして下に着くと何も無かった様にその場を去っていく、その自然体の優しさに麻理子は感動した。


「遥子の言う通りだと思った」
「でしょ」


二人は笑いながら九段下駅の階段を下っていった。


つづく


コメント

  1. 大阪の永ちゃん狂い より:

    自分も初日に、永ちゃん発参戦の子を連れて行ったんで、永ちゃんファンの感想や、
    「靖国通りに面した歩道で二人は右に曲がった。物凄い人の数で混み合ってるが・・・」
    なんか当日の事が蘇ってきますわ
    遥子がこれからどんな風に変わって行くのか、どんな展開になるのか益々楽しみになってきましたで(笑)

  2. AKIRA より:

    大阪の永ちゃん狂いさん♪^^
    毎度嬉しいコメントありがとうございます
    その場面場面をイメージして楽しんで頂けたら幸いです
    次回からチョットYAZAWAから離れる話になりますが
    今後の展開に必要でして、合せて、そちらの方もヨロシクお願いします

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