静かに曲が終わると麻理子は自然とYASHIMAの面々に拍手を贈った。
バンドは休む事無く次の曲を演奏し始める。
ピアノのアルペジオからシャープなギターフレーズ。そして力強い三連符のベース音。
エモーショナルなイントロダクションに、さりげないバックコーラスが見事に調和する。
「守ってやりたいだけ~♪」
矢沢永吉の♪DIAMOND MOON。
永ちゃんの曲の中で麻理子が最も好きな曲の一つである。
これも選曲したのは遥子であるが同時に裕司の歌うこの唄は不器用な男の麻理子への想いを雄弁に物語ってくれていた。
永ちゃんの力を借りて贈る麻理子へのラヴレター。
裕司は西岡恭蔵作詞による、この至極のバラードのお陰で自分の想いを表現する事が出来、麻理子にもそれは充分に伝わっている様であった。
時に囁く様に、時に力強く歌う裕司をジッと見詰めている麻理子。
その意識は廻りから見ても裕司一点に集中しているのが伺えた。
最後のフレーズに渾身のヴィブラートを掛けると裕司は曲のエンディングを待たずにステージから降り麻理子の方へと歩きだした。
それに合わせるかの様に立ち上がる麻理子。一歩右に出て裕司が来るのを待つ。
自然とフェイドアウトしてゆくバック・ミュージック。
麻理子の正面に立ち止まりサングラスを外す裕司。向かい合う二人。
だが裕司は麻理子と全く顔を合わせる事が出来ない。
見詰める麻理子と違いキョロキョロと落ち着きの無い裕司。
ステージ上では敏広達が「行けっ!行けっ!」と念を送っている。
「ま……麻理子さん………」
声が震え上擦る。
「はい……」
「その……ほ、ほ…惚れ……ほ……」
麻理子の表情が、ほんの少し明るくなりバックの面々も自然と身体が乗り出す。だが
「…ほ、本日は、お誕生日おめでとうございますっ!!」
ガタガタガタガタッ!!
敏広達、バンドのメンバーは一斉にズッコケた。麻理子も目が点になる。
「あぁ、はい…ありがとうございます……」
「そ、その!本日は…お、お、お日柄もよく!……」
そのまま訳の判らぬ事を喋り続ける裕司。麻理子の表情も困惑しているのがよく判る。
「あいつは何を言ってるんだ?」
仕掛け人達は皆、一様に苛立ちを覚え、敏広と賢治は今直ぐ裕司をブン殴ってやりたい衝動に駆られた。
いつまで、この裕司の愚にも着かない話が続くのかと誰もが思った。だが言う言葉が無くなったのか唐突に口を噤む裕司。
水を打った様な静けさがフロアを包む。
「……ふう~~~…」
下を向いたまま深呼吸をする裕司。すると
ガコッ!!
突然、裕司は自分の右の頬を自らの拳で力任せに殴り突けた。
鈍い音がフロアに響き麻理子は絶句して両手で口を抑える。
「……っ痛ぅ~~~」
相当効いてる筈である。だがその痛みで落ち着く事が出来たのか、裕司はこの時やっと麻理子の顔を直視する事が出来た。
その真っ直ぐな瞳にドキッとする麻理子。
「……麻理子さん!」
「は、はい!」
「……好きです!初めて武道館で逢って一目惚れでした!あの日以来ずっと麻理子さんの事を想ってました!」
さっきとは打って変わって思いの丈を口にする事が出来る。
「何度も逢って貰ってる間にも想いは益々募っていきました!俺には貴女しかいません!…俺は…………俺は貴女の為なら自分の人生の全てを捧げる事が出来ます!!」
オォーッと、どよめく周囲。麻理子の頬も、ほんのり赤く染まる。
「何の取柄も無い俺ですが…それでも良かったら………俺と付き合って下さい!!」
身体を深く折り曲げる裕司。生涯初めての告白である。
再び静寂に包まれるフロア。
アンプから微かに聞こえるハムノイズが、より静けさを際立たせる。
固唾を飲んで先行きを見守る仕掛け人達。
裕司はやるべき事はすべてやった。だが麻理子がその気持ちに応えなければならない義務は無い。
すると麻理子が姿勢を正した。
「……私で良かったらヨロシクお願いします」
その言葉を耳にして弾かれる様に身体を起こす裕司。
「イエーーーーーーーーーーーイッ!!」
ステージでは敏広がマイクに向って大声でシャウトする。
クラッカーの破裂音と共に急に明るくなるフロア。
ビックリして周囲を見回す麻理子。
いつの間にか、いつもの仲間達が自分達を囲んで拍手を贈っていた。
「ワン、トゥー、スリー、フォーッ!」
敏広のカウントでバンドが演奏し始める。
麻理子と裕司のYAZAWA仲間達は一斉に♪恋の列車はリバプール発の大合唱を始めた。
コメント
あぁ、やっと告白しましたね。
だけど、このシチュエーションでコクられてokしない女性はいないですね(*^^*)
うらやましい限りです☆
二人を見守り、応援している矢沢仲間と一緒にやきもきしていたので、ホッとしました

ってあれこれ考えていました


これからの二人の恋の行方が気になります
どの曲が来るのかな~
そっか~
♪抱いてやりたい~~~
DIAMOND MOONの「い~~~」のビブラートを
youtubeで再生して何度も聴いて、
裕司君と麻理子ちゃんの気持ちを一緒に受け止めることが
出来ました。Happy~~~╲(。◕‿◕。)╱
chinatownさん♪^^お待たせしました(笑)
>このシチュエーションで~
女性からそう言って頂けると、
この展開にしてホントに良かったと思います
YAZAWA仲間に乾杯です
ぺこちゃん♪^^
二人を見守って頂きありがとうございます
一応ドロドロの展開にならない事だけは保証します(笑)
曲は良い意味で予想を裏切る事が出来たと自負しとります
Baybreezeさん♪^^毎度です
二人に思いを馳せて頂き、ありがとうございます
今後も二人を見守り続けて下さったら嬉しいです