眞由美の高校の卒業式の当日。同じ日に拳斗の横浦賀高校も卒業式であった。
眞由美は卒業証書を受け取ると、そのまま式終了を待たず呼び止める教員を無視して退席。Z2を拳斗の所へと走らせる。
この頃には、もう眞由美も大型免許を取得し兄もバイクを譲ってくれていた。
一方、母校の正門に佇む拳斗。
眞由美が辿り着くと入れ替わる様に眞由美はリア・シートにスライドし拳斗がバイクに跨り、走り出す。
二人が始めに向った先は、あのバイク修理屋。
あの時の礼を改めて言いに来たのと無事に卒業の報告をしに来た事を伝えると身内の様に喜んでくれた。
また「てっきり結婚報告に来たのかと思った」とおじさんが笑うと二人は押し黙ってしまった。
その後、二人は出会った場所、観音崎へ。
東京湾を眺めながら暫し無言で波の音に聴き入っていると程なく二人は同時に卒業証書を取り出しては、それを一緒に破り捨てた。
帰り際にあの時、電話を借りた民家に寄ってみる。
すると拳斗の事を憶えていたお婆ちゃんがまた2人にコーラをくれた。
そして二人はサンライズへ。
この日、店は夜の部を臨時休業。
4人でのささやかな送別会が開かれ思い出話に花を咲かせた。
やがて別れの時間が訪れ
「荷物はこれだけか」
店主から大きめのボストンバッグを渡される拳斗。前日にアパートを引き払っていた拳斗は1日だけサンライズに厄介になっていた。
「お前なら何処に行っても大丈夫だ。だが身体だけは大事にしろよ!」
「はい」
「淋しくなるわねぇ……」涙ぐむ奥さん。
「眞由美ちゃんもありがとな!ホントよくやってくれたよ!!」
「いえ。私の方こそ本当にありがとうございました」
言葉に詰まる4人。
「それじゃ………行きます!」
「元気でね!」
「達者でなっ!」
「はい!お世話になりました!!」
2人一緒に礼をする拳斗と眞由美。
そして2人は思い出の店サンライズを後にした。
それから二人が向った所は国鉄(当時)横須賀駅。
「このZ2ともこれでおさらばだな…」
愛おしそうにタンクを撫でる拳斗。
そんな拳斗を見詰めながら眞由美は無言のまま10ヶ月前の事を思い出していた。
「俺達はまだ若い。とゆうより未熟だ。高校を卒業してからも、まだまだやらなきゃいけない事、経験しなきゃならない事が沢山あると思う。互いの成長の為に卒業したら………一度、終わりにしよう」
あの時、不思議と眞由美は驚かなかった。
いつか、こんな日がくるのではないかという覚悟はしていたのだ。
勿論、本当なら来て欲しくはなかった。
だが自らに予防線を張って置かなければ、あの時、とても耐えられなかったであろう。
やがて拳斗は眞由美と向かい合う。
「もし運命という物が本当にあるなら、またいつの日か逢えるだろう」
「そうね」
「眞由美。お前に出会えたお陰でこの3年弱の間、本当に充実した日々を送る事が出来た」
「私も楽しかったわ」
「眞由美と過した日々は俺の宝だ。お前の事は決して忘れない」
「私も忘れない」
拳斗はバッグの中から1枚のタオルを引っ張り出した。
前年、一緒に行った後楽園で手に入れた白地に黒いE.YAZAWAのロゴが入った、いわゆるカンパニー・タオル。
少々使い古した感のあるそのタオルを眞由美に手渡す。
「スミ達にもヨロシク伝えてくれ」
頷く眞由美。スミとは真純の事である。
「それじゃ元気で」
敬礼をする拳斗。
同じ様に敬礼を返す眞由美。
そして拳斗は眞由美から旅立って行った。
改札を通り小さくなっていく背中をじっと見詰める眞由美。
その姿が次第に滲んでゆく。
「季節が一つ、終わっただけよ……」
♪最後の約束の一節を呟きながら眞由美は受け取ったタオルをギュッと抱きしめ込み上げてくる感情を押し殺そうと気丈に振舞った。
コメント
《卒業証書を破り捨て~》(成りあがり)のあの場面を思い出しますね~
《最後の恋人》
いつも思いますが、選ぶ曲がばっちりその場面にはまってますよね
沢山の永ちゃんの曲の中からどうやって選んでるの
電車の中で泣きそうになっちゃいました…(T_T)
ぺこちゃん♪^^毎度です
>卒業証書を~
この部分は掲載直前に急に思い付いてソッコーで書き足しました
当然『成りあがり』を参考にしましたが我ながらナイスな演出だと思っております
>《最後の恋人》(原文ママ)
>沢山の永ちゃんの曲の中からどうやって~
タイトルを間違えない位に曲を聴き込めば難しくないですよ(笑)
Chinatownさん♪^^毎度です
嬉しいご感想ありがとうございます
読んで下さる方の心に少しでも触れられれば書き手としてこんなに嬉しい事はありません