ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆124

眞由美は拳斗の話を黙って横で聞いていた。

「本当なら俺にそんな資格は無いのかもしれない。いや、無いだろう」

ビールを一口飲む。

「だが、それでも最後の審判を受けたくて此処に来たんだ。果たして運命が本当なのかどうか」

そう言って拳斗は口を閉ざした。

暫く沈黙が流れる。
並んで座ったまま微動だにしない二人。
ビールの泡が弾ける音さえも聞こえそうな位の静寂。
グラスの表面に付着した水滴が流れ落ちコースターを濡らす。

「私が審判を下すの?」

眞由美が沈黙を破った。

「資格があるのは眞由美だけだ」
「なら私が決めていいのね?」
「あぁ」
「どんな結果になろうとも?」
「受け入れよう」
「絶対に?」
「約束する」
「…………ならこれが答えよ」

眞由美は止まり木から立ち上がると拳斗の顔を強引に引き寄せ唇を重ねた。

(BGMは♪あ・い・つ)

長く熱いキスを交わし眞由美は拳斗の広い胸に顔を埋める。

「今度……」

眞由美は泣いていた。あの日、拳斗と別れて以来の涙であった。

「今度、私から旅立とうとしたら、貴方、殺して私も死ぬから…………」
「一度は死にかけた身だ。俺でよかったら、この命くれてやる」
「約束だからね」
「あぁ」

眞由美は声を上げて泣いた。眞由美がこんなにも感情を曝け出すのは後にも先にも、この一度だけであった。

その頃、店の外側では

「あれぇ?こんな店、あったっけか?」
「オープン・ユア・ハート?」
「あぁ~でも、クローズになってるわな」
「それにしてもこのパイロン邪魔だなぁ」
「まだ工事中なんだろ。別の店行こっ!別の店」

去ってゆく通りすがりのサラリーマン達。

実は真純が拳斗入店直後にプレートを裏返し近くの道路に放置してあったパイロンを入り口に並べて他の者が入れない様にしていたのだ。
この真純による『営業妨害』のお陰で眞由美と拳斗はこの日、誰にも邪魔されず互いの運命を確かめ合う事が出来たのだった。


つづく

コメント

  1. Baybreeze より:

    真純さん、どんな細工したのかしら?と気になって、124更新が待ち遠しかったです(笑)
    そっか~バイロンね えバイロンって何?(爆)
    調べちゃいました 工事現場にある三角帽子みたいのバイロンって言うんですね

  2. AKIRA より:

    Baybreezeさん♪^^毎度です&大変長らくお待たせ致しました
    まぁ普段、使う事なんてないですからパイロンの名称は多くの方が、ご存知無くて当然かもしれませんね
    都合よく道路に放置してあったので利用させてもらいました(爆)

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