扉を開けると店内には既にいつもの仲間が揃っていた。
「こんばんは」
「いらっしゃいませ!」
「澄子さん久しぶりーっ!」
「明けましておめでとうございます!」
いつもの陽気な雰囲気に澄子の表情も綻ぶ。
皆に促され奥のソファへ腰掛けると隣に千晶が座ってきた。
「澄子さん身体の方は大丈夫?」
この頃には前年末に澄子が倒れた事はこの場に居る全員に知らされていた。
「大丈夫よ。ありがとう!」
「ホントに?ホントに大丈夫?」
「御免なさいね。心配かけちゃって。でも本当に大丈夫だから安心して」
「千晶ちゃんたら、さっきまで澄子さん来るかなぁ?来るかなぁ?ってずっと心配顔だったんですよ」
「もう愛美さん!」
恥ずかしそうな千晶。それを聞いて澄子はクスクス笑ってしまう。
「ありがとね。千晶ちゃん」
この日の新年会は同時に澄子の快気祝いが目的でもあった。
毎年恒例の新年会は既に1月中に行われており、その時はオーナーの眞由美、真純の他にはOYHの常連客だけという例年より寂しい宴となり「澄子さんの体調が回復したら一緒に新年会やりたい!」という千晶の希望もあって、いつものメンバーは1月のそれには出席せず今回の宴に合わせて眞由美の店に集ったのだ。
新年の挨拶、乾杯の音頭もそこそこに参加者の殆どはビール。未成年組はコーラ。澄子には愛美お手製のアルコールを極力抑えたブランデー・エッグ・ノッグが振舞われた。
「まぁ!美味しい!」
「ありがとうございます」
「身体も温まるし。愛美さんの作ってくれるカクテルはどれも優しいお味がするのね」
「愛美さん私もそれ飲みたいっ!」
「お酒が入ってるから駄ぁ目っ!」
「薄くしてよ!」
「ノンアルコールだったらいいわよ」
「えぇ~っ、それって美味しいの?」
「あら言うわねぇ」
カウンターに入ってホット・カクテルを作り始める愛美。
出来上がったカクテルは見た目は澄子の物と全く同じ。
「わぁ!甘くて美味しい!!」
「やっぱり、まだまだお子ちゃまねぇ」
ブランデーとダークラムの代わりにハチミツを入れたのだった。
「なーによもう!」
やがて宴が進むと共に話題は前年のツアーの感想で盛り上がり特に澄子が参戦する筈だった武道館100回公演の話は都合で参戦出来なかった拳斗や永悟達も興味津々な様で何とかチケットを確保した敏広達の熱いトークに耳を傾けていた。
因みにその日、里香は永悟と千晶からの大ブーイングも何処吹く風、彼氏の明夫と参戦。
麻理子は運良く携帯サイトでチケットを確保出来、当然、裕司と参戦。
また急遽、空いてしまった澄子の席は眞由美が譲り受けていた。
「だけど、あの時の眞由美ちゃんの弾けっぷりたら凄かったわよねぇ!」
「ちょ、ちょっと!」
「二階席からも見えましたよ!」敏広と賢治が笑う。
「余りに凄いから退場させられるんじゃないかと内心ヒヤヒヤだったわ!」
「お前まさか飲んで行ったのか?」と拳斗。
「飲むわけ無いでしょっ!そんな大事な日に!わ、私は行けなくなっちゃった澄子さんの分まで楽しもうと思っただけよ!」
すると澄子が穏やかな表情で
「お役に立てた様で良かったですわ」
「あ、う……」
強烈なツッコミに言葉を失う眞由美。
ドッと笑いが起こり同時にそんな冗談を言える澄子を見て仲間達は体調面での心配はもう大丈夫そうだと、この時やっと安心出来たのだった。
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