仕事が終わると麻理子は一度帰宅して入浴後に裕司から預かった紙袋を手に調布駅へと向かった。
夜7時。到着して5分後に遥子が改札から出てきた。
「お待たせ!」と遥子。晴れ晴れとした表情をしている。
「お帰りなさい!」
そのまま歩いて遥子の実家へと向かう二人。
「あぁ~っ!これで忙しさから開放されるわ!」
「お疲れ様!」
「ホント疲れたわよ」と苦笑いの遥子。
本日、例のマレーシアでのプロジェクトの準備が全て整い明日、遥子は代休。麻理子も貰った年休を無駄にしないで済んだ。何より麻理子は今日の約束がドタキャンされなかった事が嬉しい。
「ただいまぁ」
「お帰りなさーい」
「お母さん、麻理子、連れてきたよーっ」
パタパタとスリッパの音が大きくなる。
「まぁまぁ!麻理子ちゃん久しぶり!」
「ホントご無沙汰してます」
飛び降りる様に玄関に下りて麻理子を抱きしめる響子。
麻理子が遥子宅を訪れるのは約8年ぶり。
「ねぇ遥子が居なくてもたまには遊びに来てぇ!私、麻理子ちゃんの可愛い笑顔、大好きよ!」
そう言われ照れて赤くなる麻理子。
リビングに通されると麻理子は自らお願いして仏壇の前へと赴き大学時代に相次いで亡くなった遥子の祖父母の遺影に手を合わせた。
そして、この時も遥子のリクエストによる特上寿司を食べながら女3人で昔話や互いの近況を語らい9時を過ぎる頃に遥子が風呂に入ると言い出し家で入ってきたからと断る麻理子を強引に連れ込んで一緒に風呂場へ。
女同士の裸の付き合いを終える頃には遥子の父、敬一が帰宅しており挨拶。その後、遥子の部屋にて改めて自分と裕司から預かったプレゼントを渡す。
皆からのプレゼントを開けながら二人で盛り上がり日付が変わる頃に就寝。だが何故か二人とも寝付けない。
灯りを消した部屋にて布団に入ったまま
「ねぇ遥子、チョット聞いてもいい?」
「何?」
「遥子は……好きな人とかいないの?」
「何よ急に?」と苦笑する遥子。
暫しの沈黙の後
「何だってそんな事聞きたがるの?」と遥子が改めて問う。
「だって……気になるんだもん」
麻理子に限らず裕司や眞由美達も遥子の恋愛事情、平たく言えば男関係には皆、少なからず関心が有った。
―――約1週間前の川崎OYH――――
「まさか生娘だったりして」
「ちょっと最低!」と加奈子が敏広を詰る。
麻理子はその辺の事実を知っていたが当然黙っていた。
「敏広、そりゃお前の願望だろ?」
「あれだけ色っぽいんだからそんな訳無いって」
「でも遥子ちゃんってあんな美人さんなのに不思議な位、男の匂いがしないわよねぇ」
「それじゃ、まさかレズ?」
一同が敏広に軽蔑の眼差しを向ける。この時、誰もが何故、敏広がガールフレンドに困らないのか理解に苦しんだ。
「まぁでも遥子ちゃんの様な才女だと男の方が気後れするのは間違い無いな」
「それは有るわね」
「確かに余程、優秀な男じゃないと遥子ちゃんには不釣合いかもねぇ」
「敏広、残念だったな」
「何スかそりゃ!」
皆が爆笑する。
再び遥子の部屋
「それに私…遥子の彼氏って一度も紹介して貰った事無いし……」
そういえば過去に麻理子は元カレに逢って貰った事が有ったが、その逆は全く無かった。
「何だかそれがチョット寂しくて……」
「何で麻理子が寂しがるの?」
「だって親友だもん!何でも話して欲しいじゃない!!」
「たまたま紹介したり話す機会が無かっただけよ。別に隠してる訳じゃないわ」
「そう……」
「それに今は仕事もプライヴェートも充実してるし。恋愛って無理してするモンじゃ無いでしょ」
「うん……」
「まぁ、出会いが有れば判らないけどねぇ。その辺は神のみぞ知るってトコかしら」
すると突然、麻理子が
「ねぇ敏広君は?」
それを聞いて思わずブッと吹き出す遥子。
「な、何でそこで敏広君の名前が出てくるワケ?」
「うん……」
麻理子も自分で口にはしたものの、何故、この時、敏広の名が思い浮かんだのかはよく判らなかった。
また沈黙が流れる。
「…………そりゃ好きか嫌いかと問われれば彼の事は好きよ。でもそれは賢治君や裕司君達と同じで友達としてね」
「そっか……」
「まぁ私の事はいいじゃない!今は仕事が一段落して一人でゆっくりのんびり過ごしたいと思ってた所なんだし」
「うん……」
「麻理子の方こそ裕クンと、どうなのよ?」
「えっ?」
二人が相変わらずラブラブなのは周知の事実であったが話の矛先を変える為に遥子はわざと話題を変えた。
その後はいつも通りの麻理子のお惚気話が続き1時を過ぎた頃には二人とも自然と目蓋を閉じていた。
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