ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆014

新年会当日。


麻理子は夕方6時にJR川崎駅で日中は仕事だった遥子と待ち合わせ軽く食事をしてから眞由美の店に向かった。


女性の足で駅から徒歩10分位の裏路地に面した雑居ビルの1階にOpen Your Heartは店を構えている。


開始予定時間は7時。
15分早く店に着くと扉には大きく『本日貸切』のプレートが掛かっていた。
遥子が扉を明けるとカランカランとベルが鳴り店内に流れてる♪RUN&RUNが聴こえてくる。


「いらっしゃーい」


眞由美の明るい声が響く。
武道館の時とは違ってゴールドのE.YAZAWAのロゴが胸に入った黒いTシャツにデニムとかなりラフな格好である。


「明けましておめでとうございまーす」
年が明けて初めて逢うので新年の挨拶をする遥子。
「おめでとう遥子ちゃん。キャー!麻理子ちゃん来てくれたのね!」
「こんばんは」
「嬉しいわ。いらっしゃい」
麻理子を抱きしめる眞由美。
武道館で逢って以来すっかり麻理子が気に入ってしまった様だ。


まだ他のメンバーは着てない様だがカウンターの奥にはソムリエール風の若い女性が一人立っていた。
長い紅色の髪をポニーテールに纏め、赤いフレームの眼鏡が知的な雰囲気を漂わせている。


「私の娘なの。麻理子ちゃんは初対面よね」と眞由美が紹介する。
「初めまして。麻生愛美です」
「別れた旦那の苗字よ」
聴き難い事を、さらりと言ってしまう所に眞由美のサバサバした性格が表れてる。


愛美は二十歳。
父親と暮らしながら大学に通い、夜は週3回、都内のホテルのバーでバーテンダーのアルバイトをしている。


「週末によく店を手伝いに来てくれるの。私に似ないで良い子に育って良かったわ」
「でもお酒と永ちゃんが好きな所はママ似よ」
愛美の言葉にみんな笑う。


「楽しそうだな」
若林拳斗が店に入ってきた。
「お疲れ様」
眞由美は拳斗の背中に廻りジャケットをゆっくりと脱がし愛美に渡す。
受け取った愛美はカウンターの奥のクロークにそのジャケットを仕舞いこむ。
まるで帰宅した父親を出迎える妻と娘の様である。


「こんばんはー!」
今度は敏広と賢治が勢い良く入ってきた。


「いらっしゃい」
「おめでとう」
「遥子ちゃん、あけおめ。オォー!麻理子ちゃんまた逢えたね!」
「こんばんは」
「愛美ちゃーん!今年もヨロシクねーっ!」
カウンターの奥にいる愛美を目敏く見付ける敏広。
「ヨロシクー」と手を振る愛美。
「今年は一緒に永ちゃん観に行こうねー!」
愛美は、それには答えずただ笑っていた。


「あれ?裕司君は?」と遥子。
「風邪ひいたって」と賢治。
「そうなの?」
「最近、寒いもんねぇ」と眞由美。
「ったく馬鹿は風邪ひかない筈なのになぁ」と敏広。
「裕司もお前には言われたくないと思うぞ」
賢治のツッコミに一同が爆笑する。


「あらー?もう始まっちゃってる?」


今度は宝塚の男役の様な雰囲気の女性が入ってきた。麻理子が初めて見る顔であった。

つづく


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