唖然とする遥子。
マレーシアに旅立つ事はメールに書いたが飛行機の時間迄は知らせていない。
しかも今日は平日。眞由美や真純はともかく敏広達は仕事の筈。
だがその程度の事等全く問題にしないのが遥子の仲間達であった。
「遥子ちゃん、ちょおっと冷たいんじゃなぁいぃ?」
「そうよねぇ。こんなメール一通だけで行っちゃおうとするなんてさぁ」
携帯を取り出す眞由美。
「私達の関係ってこの程度だったわけ?」
「…………すみません」
「冗談よ。神崎さんの事とか有ったもんね」
「私達に気を使ってくれたのよね。でもやっぱり、ちゃんと言って欲しかったわ」
「はい……」
「まぁいいじゃないか。今こうして逢う事が出来たんだから」
「だからせめて見送りくらいはさせてくれよ」
「ありがとう。でも仕事休んでいいの?」
「親父が危篤だからいいんだよ」
「俺も親父が危篤」
「俺も」
「お前の親父はもう死んでるだろ!」
敏広達、三羽烏の馬鹿な口実に笑いが起こる。
「で、どれ位マレーシアに?」
「最低でも3年間は」
「長いわねぇ」
「でも時々は日本に帰ってこられるんでしょう?」
「たまには長いお休みも貰えるかと」
「その時は絶対ウチに飲みに来てね!」
「勿論です!」
「遥子ちゃんなら何処に行っても心配無いさ。でも健康には気をつけてな」
「ありがとうございます」
「だけど、せめて送別会位はやりたかったよなぁ」
「お酒目当てで?」
「そうそう!って違うワッ!」
また笑いが起こる。
普段通りであった。だがこんな他愛の無いコミュニケーションがいかに自分にとって大切であったのか遥子は改めて仲間達の有難味を噛み締めていた。
「あ、敏広君」急に改まる遥子。
「えっ、何?」
「今迄色々本当にありがとう!君に出会ってなかったら私は永ちゃんのライヴに参戦する事も情事さん達とも知り合う事も無かったわ。貴方は私の最高のYAZAWA仲間よ!」
「お、おうよ!」
はにかむ敏広。だがその表情は何処か悲しげでもあった。
一瞬の沈黙の後
「さて、名残惜しいけど私達はそろそろ御暇するわ。後は親友同士、存分に語り合って」
<BGMは♪So Long>
立ち去る真純達。去り際に裕司が麻理子の肩をポンと叩く。
遥子をジッと見詰めている麻理子。その表情は明らかに怒っている。
「麻理子……」
「ヒドイよっ!何も言ってくれないなんてぇ!」
「………ごめんねぇ」
「イヤだっ!許さない!」
「それでもゴメン!」
「遥子のバカッ!!」
遥子の胸に飛び込みポカポカと叩く麻理子。そのまま顔を埋め泣き出してしまった麻理子を遥子はギュッと抱きしめた。
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