ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆170

肝硬変であった。

煙草もギャンブルも増して女遊びもやらず特に趣味といった物が無かった雄一郎の人生の楽しみと言えば酒。
例の緊急入院以降は体調も回復傾向で適度な飲酒であればそれ程負担では無い様に思われたが病魔は確実に雄一郎の身体を蝕んでゆき、その日、遂に生命をも奪っていった。

雄一郎夫妻には子供や他に身内が居なかった為、裕司が率先して通夜、葬儀を取り仕切り告別式には敏広や真純達は勿論、ミスター・ギブソン等、雄一郎と関わりの有るYAZAWA仲間が日本全国から駆け付け故人を見送った。

この日、麻理子は終始、泣き続け眞由美や真純も涙に暮れ普段は陽気な敏広達も悲しみを隠そうとしなかった。

《こんな状況で……言える訳無いよね……》

遥子は雄一郎の死を悲しみつつも、やはり自分の現状を頭から切り離す事が出来なかった。

大切な仲間を失っても時は何もなかった様に過ぎ去ってゆく。
残された者達は例えどんなに悲しくても当たり前の様に日々訪れる日常を生きて行かねばならない。

気が付けば出発前日を迎えてしまった遥子。
膨大な雑務に追われゆっくり考える暇も無く、とうとう明日、日本を発つ。

仕事に関して不安等は無い。むしろ使命感に燃えている位である。だが麻理子や仲間達にちゃんと『お別れ』を伝える事が出来なかった事が心残りでならなかった。

このまま何も言わずに行ってしまおうか?そんな想いも浮かんだがやはりそれは出来ない。
調布の実家の部屋にて遥子は明日マレーシアに行く事を伝えるメールを作成。
それを仲間達へ同時送信すると最後に親友の麻理子にだけ追伸メールを送信して床に入った。

翌日早朝

「それじゃ行ってきます」
「しっかりな」
「がんばってきなさい!」

父と涼子に見送られ母、響子が運転するレクサスLSで成田まで向かう。

移動中、引切り無しにメールを受信する遥子の携帯。そのどれもが会社の上司や同僚達からの激励で瀧本や典子からのメールもその中に含まれていた。

素直に嬉しくなる遥子。だが逆にYAZAWA仲間からのメールが何故か一通も来ない事実は正直ちょっぴり寂しかった。

やがて車は成田に到着。

「気を付けてね」
「朝早くに送ってくれてありがとう」

走り去るレクサスを見送る遥子。

搭乗手続きを済ませロビーにて一人、外を眺める。

これから自分のやるべき事に考えを巡らせると同時にやはり麻理子や仲間達の事を思い出してしまう。
せめて旅立つ前に一目だけでもみんなに逢いたかった。出来れば直接、自分の口で伝えたかった。
後悔だろうか?未練だろうか?異常な程に多忙であったこの数日間を遥子はちょっと悔やみ恨んだ。

だがその時

「遥子ちゃん!」

突然呼ばれ声の方に振り返る。


「!、情事さん!!」

真純だけで無く眞由美に拳斗、愛美に敏広、賢治、加奈子、裕司、そして麻理子がそこに居た。

つづく

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