「あぁ~情事さん!こんばんは!」
「里香ちゃん元気だった?」
「はい!」
「珍しいわね。平日に来るなんて」
「旦那が明日、出張から帰ってくるから最後の自由時間を有意義に過そうと思ってね」
3人が同時に顔を合わせるのは眞由美のバースデー・パーティー以来である。
眞由美はハイネケンの瓶を真純の前に置いた。
真純の最初のオーダーはいつもこれである。
里香のグラスに合わせて瓶から直接、一口飲む真純。
「で、何を墓場に持っていくって?」
「あ・・・それは・・・」
「二人だけの秘密よね」
「は、はい」
「あ~ら仲間外れにするのね!それじゃ私も墓場まで持って行こうと思ってた眞由美ちゃんの爆弾、今ここで落としちゃおうかしら」
「ちょ、ちょっと何言い出すのよ!」
「里香ちゃんも知りたいでしょ?」
里香は非常に困った。
知りたいが今さっき自分の爆弾を眞由美に明かしてしまった為に、はっきりYesと言う事が出来ない。
実は眞由美は里香の事を笑えなかった。
非常に酒癖が悪く爆弾の殆どが酒絡みなのだ。
尤も、それ等の話は眞由美の周辺では皆が知ってる事であったが眞由美が勤務中にアルコールを口にしない真の理由はこの辺にある。
「大体あんた何回、私の爆弾落とせば気が済むのよ!」
「最近、落としたかしら?」
「パーティーの初っ端よ!」
「あぁ~、あんなの爆弾の内に入らないわ。いい加減、年齢に過敏になるのは止めなさい」
―――そのパーティーの初っ端―――
時間は押したが何も無かったかの様に眞由美のバースデー・パーティーは始まった。
「今年も各方面から多数、集まってくれて如何に眞由美ちゃんが皆から愛されてるか再確認できたわね。それじゃ主役の眞由美ちゃん、一言ヨロシク!」
真純からマイクを受け取る眞由美。
「みんな、今年も私の『17歳』の誕生日を祝いに来てくれてありがとう!」
「………………」
シーーーーーーーーンと静まり返る場内。毎年の事ではあるが今年は例年以上に雰囲気が重苦しくなる。
「な、何よみんな!何か文句あるの?」
その空気を敏感に察知して眞由美が自然と不満を漏らす。
「ママァ、いい加減にしてよぉ!」と愛美。
「毎年毎年、同じボケかましてぇ。私達リアクションに困るのよ!」
「ボ、ボケとは何よ!」
以前これを聞いた参加者がジョークと解釈して笑ったら思い切り眞由美に睨まれた事があり以来、この眞由美の挨拶が毎年恒例の一番盛り上がらない時間となった。
「で、今年で何度目の17歳だ?」と拳斗。愛美と共に眞由美にはっきり物が言える数少ない人物である。
「う、うるさいわね!私は永遠のレディ・セブンティーンだって・・・」
「それじゃ眞由美ちゃんの45歳を祝ってカンパーイ!!」と真純。
「かんぱーい!!」
「こらぁーーーーっ!ひとつ多いーーーっ!!」
「眞由美ちゃん見た目は凄く若いんだから一々実年齢を気にする事無いじゃない」
外見だけなら眞由美は20代で通用する。
「だからって一々公表しなくてもいいでしょっ!しかもワザと増やして!!」
「ってゆうか眞由美ちゃんの実年齢なんて皆にバレバレよ。私と同い年なんだし」
真純も眞由美程では無いが見た目は実年齢より若々しい。何より真純は女性にしては珍しく自身の年齢に拘らない性格であった。
「だったら尚の事、言う必要無いじゃない!!」
「だって毎年『永遠のレディ・セブンティーン』なんて寝言聞かされたら訂正したくもなるわよ」と真純が笑う。
「寝言とは何よっ!!」
流石のハマのメドゥーサも真純の前では形無しと言った所か。
二人の不毛な言い争いを横に里香は笑うに笑えず苦しい思いをしていた。
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