眞由美と拳斗に出会った数日後、真純は『歪虜怒王』を正式に解散すると宣言。
メンバー誰もが驚き当然、反対する者も居たが元々、真純のカリスマ性だけで集まって出来たチーム。
そのカリスマの言う事には誰も逆らえなかった。
だが、この《『歪虜怒王』解散》が後に別の問題を引き起こしてしまうのであった。
絶対的な存在が無くなった為、新たにその覇権を狙おうとする勢力が雨後の筍の如く生まれ中には元メンバーでも無いのに「初代から継承した」と偽り『歪虜怒王』を復活させようと企む輩まで複数現れては「我こそ二代目」と主張し小競り合いを展開。
「何でこうなるのよ………」
サンライズのテーブルにて頭を抱える真純。
「それはもうアンタのせいじゃ無いわよ」
眞由美がサラダとスープをテーブルに置く。
「でもねぇ……」
「やっぱり解散するべきじゃ無かったんじゃ……」と同じテーブル席に座っている元メンバーの一人。
『歪虜怒王』というチームは解散したがバイクに乗る事自体を止めた訳では無いので真純と後輩達はツーリングに出かけては、その道すがらサンライズに寄って食事をするのがこの頃の定番コースになっており、この日も12人程、店に訪れていた。
「今更そんな事、言ってもしょうがないじゃない!」と別の後輩。
「しょうがなくないでしょ!現に真純さんも責任感じてるんだし!」
「真純さんのせいだって言うの!?」
「そんな事、言ってないわよ!」
「やめなさい!」
言い争いを嗜める真純。
「それだけ歪虜怒王の影響力が凄かったって事よねぇ」
「お願いだからその名前を出すのは止めて………」
完全に『歪虜怒王』というキーワードがトラウマになってしまった真純。
これが原因で今迄大好きだったスージー・クアトロさえも聴けなくなってしまい、それが転じて後に眞由美と拳斗から勧められ、それまでは大して興味の無かったキャロルとYAZAWAサウンドにハマってしまうとは何とも皮肉な話である。
「若いんだからトコトン悩みなさい」
奥さんがライスとパンを持ってきた。
「そう言われましても……」
「悩めるだけまだ余裕が有るって事よ。溺れかけてる人は悩んだり出来ないから」
「………確かに」
「腹いっぱいになれば少しは良い案でも浮かぶんじゃないか?」
拳斗がステーキの乗ったプレートを置く。
「いっただっきま~す!」
この時ばかりは皆、笑顔になる。
無言で食事に夢中になる真純と後輩達。
食欲が満たされた所で
「どう?良い案、浮かんだ?」
食後のデザートとコーヒー、紅茶を手際よくテーブルに置く眞由美。
「そんな簡単に浮かべば苦労しないわよ」
「なら私が名案、教えてあげようか?」
「どうせ全員ブチのめすとかでしょう?」
「な~んだ判ってるじゃない」
「眞由美ちゃんらしい発想だ事………」
「何なら私も手伝おうっか?」
「お前はただ自分が暴れたいだけだろ」
拳斗がプレートを下げに来た。
「失礼ねっ!私はただスミに協力したいだけよ!」
白々しく聞こえなくも無いが、これはこれで嬉しい。
「ありがとう。でも、こればっかりは自分で解決しなきゃねぇ」
そこに
「喧嘩は駄目だからねっ!」
ポットを持った奥さんが皆のグラスにお冷を継ぎ足しながら真純達に釘を刺す。
「も、勿論です!そんな事しませんよ………」
サンライズの奥さんは普段は物腰も柔らかく凄く優しいのだが、事、喧嘩に関しては厳しく怒ると眞由美でさえも震え上がる程に怖かった。
だからという訳では無いが、その後、この問題は一応『喧嘩』で解決に至る事は無かった。一応は。
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