神園永悟は前年の夏休みを利用して小遣い稼ぎと尊敬する拳斗を真似て自らの人生経験の為に学校から程近い神田神保町のカフェでアルバイトを始めた。
場所柄、大学生や本好きな老人、出版関係者がよく集まる店で、常連客の一人にスポーツ関係の雑誌編集長をしているアラフォーの男が居た。
その男の名を仮にHとしておく。
背が高くガッチリした体型で短髪。趣味はサーフィンで、よく日に焼け歯も真っ白。実年齢よりも若く見え爽やかなお兄さんとゆう風体で気さくな人柄に永悟も好感を抱きHも時にチップをくれたり色んな興味深い話をしてくれたりと良くしてくれた。
そして夏休み後半の有る日にHから食事に誘われバイト終了後に近くの居酒屋へ。
「お飲み物は?」
「生を二つ」
「えっ!?」
自分のドリンクを勝手に注文され狼狽える永悟。
私服姿の永悟は大学生に見えても高校生には見えないので店員も特に年齢確認をせずに注文を受けて立ち去る。
「あの、僕まだ未成年なんで……」
「大丈夫、大丈夫!」
「いや、母やお仲間からも二十歳過ぎるまで絶対酒は飲むなと……」
「何だよ!俺の酒が飲めないってぇの?」
普段と違い威圧的なH。その態度に永悟は萎縮してしまう。
「はい生二丁ーっ!」
ジョッキが二つ運ばれる。
「それじゃ俺達の出会いに乾杯しよう!」
意味が判らないが仕方ないのでジョッキを合せ一口飲む永悟。
初めて口にする生ビールの味は思ったより苦く思わず咽てしまう。
「これが大人の味だよ!」と人生の先輩気取りのH。
その後はどんな会話をしたのか憶えておらず急かされる様にビールを勧められ一口含んでは刺身、また一口含んでは唐揚げ等を頬張って苦味を打ち消す繰り返しをしている内に身体が熱くなり頭もポォーッとしてきた。
「そういえば神園君さぁ、永ちゃんファンなんだろ?」
「あぁ、はい」
「実はさぁ~」得意満面な顔になるH。
「秘蔵映像、手に入れたよ!もの凄いレアな映像をさぁ!」
「ほ、本当ですか!?」意識が持ち直してくる。
「あぁ!出版業界のツテを使ってゲットしたのさ!観たくないか?」
「も、勿論、観たいです!!」
「なら、この後、俺の部屋で飲み直そう!」
「あの、それでレア映像ってどんな?」
「……来れば分かるよ」
「初の武道館の映像ですか?それとも、もしかしてThe Rockの……」
「行くよ!早く!」
質問を遮る様に立ち上がるH。
そんなHの振る舞いに疑問を抱く永悟。
そもそもYAZAWAファンでも無いHに手に入れた映像がレアかどうかなんて判別出来るのだろうか?
更には音楽業界なら判るが出版業界のツテでどうやってYAZAWAの映像を?
妙な引っかかりと飲酒独特の目眩を感じつつタクシーで新宿区に有るHのマンションへ。
中に入ると1DKだが中々広く、かなり掃除が行き届いている。
「それじゃシャワー浴びてくるから」
「は、はぁ」
YAZAWAのレア映像を観る為にお邪魔してるのに何でシャワーを浴びる必要が有るのか不思議に思うもアルコールのせいでそれ以上、頭が働かない。
するとHはDVDのセット・アップをしてバス・ルームへと向かった。
扉が閉まると同時に永悟は画面に目を向ける。
ビデオテープからコピーしたのであろうテストパターンに古いビデオ特有のノイズ。いかにもレアだという雰囲気の映像に永悟の気分も高まる。
やがて映像が鮮明になるもYAZAWAらしい雰囲気には一向にならず何故か映っているのは何処かの砂浜。
ネイチャー番組か何かかと思わせるその映像。♪棕櫚の影にや♪ISLAND HOTEL等が似合う風景に永悟はHが自分の趣味であるサーフィンの映像と間違えてセットしたのかとも思ったが次第に波の音に混じって何かうめき声の様な物が聞こえてきた。
そして画面中央に人影が観えてくる。徐々にズームアップして行き、それが何かと判断出来ると永悟の酔いは一気に冷めた。
そこには全裸の男が一人砂浜に座り股を大きく広げてセン○リをしている姿が。
激しく声を上げ、それ以上に激しく右手を上下に連動させ、しかも局部がモザイク処理されておらず丸見え状態。
すると別の屈強な男がフレーム・インしてきてはセ○ズリ男と絡みだし後は目も当てられない展開へ。
流石に永悟も、これが何を意味するのか充分過ぎる程、理解出来た。
「ど、どうしよう………」
ベランダから逃げようか?だけど此処は確か5階。
本来なら何も言わず玄関からそっと出ていけばいいのだがパニックに陥っている今の永悟にはそんな冷静な判断を下す事が出来なかった。
オットセイの雄叫びの様な喘ぎ声に肉体と肉体が激しくぶつかり合う音が部屋に響く中、徒らに時間が過ぎていく。
ガチャッ
バスルームの扉が開いた。
コメント