ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆236

第2部一発目の♪恋リバでノリノリな雰囲気となった会場内。

立て続けに曲は♪あの夜…へ

ここでもイントロからサギ高吹奏楽部の精鋭12人は、その存在感を発揮。

その後の♪GOOD LUCK!!、♪ラッキーマンでも重厚感有るサウンドでライヴに彩を加え、続く♪さめた肌では高校生とは思えない程に色気の有る音色を聴かせてくれた。

その実力と若い頑張りにYAZAWAファンも惜しみない拍手と歓声を贈り、その熱気が知らず知らずに自分達を乗せて盛り上げてくれてる事を部員達も、一人一人、皮膚感覚で感じ、普段のコンクール等では味わえない何か特別な空間に彼等も高揚しては更なる熱気に満ちた演奏を披露するのであった。

また、♪GOOD LUCK!!の途中では琴音が身体が温まって暑くなったのか自らジャケットとシャツをその場で脱ぎ捨て上半身チューブトップブラのみの肩出し、ヘソ出しとゆうセクシーな姿を披露。

この教育者とは思えない出立ちと、途中、激しいダンスの為にブラがズレてバストトップが露出しても加奈子に指摘されるまで気付かないというハプニングに既に総立ちの男集は更に総勃ちと成り………それは兎も角、♪さめ肌の後は♪ワンナイト・ショー♪グッド・タイム・チャーリー♪FADE AWAY♪夜間飛行と続き、そして今迄と雰囲気がガラリと変わるイントロが流れ出すとYAZAWAファンが一斉に着席。釣られる様に他の客も座り出す。

「Day Dream~愛してた~♪」

♪棕櫚の影に、が始まると広瀬華音は今迄の人生で一度も味わった事の無い緊張感に震えだした。

だが、先程の様な恐怖心は無く、それは使命感にも似たやる気と熱意による物で、ただ、その気持ちが先走り過ぎて却って自分の首を苦しめてしまっていたのだった。

それまでの曲では間奏のソロ・パートは全てギターの賢治が担当していたのだが、この曲だけは、やはりスタジオ盤通りサックスで演った方が良いとメンバーの意見が一致。

そこで琴音が華音に白羽の矢を立てたのだった。

夏の夕暮れを思わせるメロウな雰囲気の中、ただ一人、震える華音。その時、ふと2週間前の練習で清純が言ってた事を思い出した。

「どうしても緊張が収まらず、どうしようもないと感じた時は、自分の大切な人、大好きな人を思い浮かべればいい。家族、友達、カノジョや彼氏、ペット、誰でもいい。その大切な人の為に自分のプレイを捧げようと思えば不思議と落ち着ける物なんだ」

ここで一人の女子部員が手を挙げ

「吉岡さんは、そんな時いつも誰の事を思い浮かべるんですかぁ?」

小生意気だが初々しい質問が飛ぶ。

「嫁さん、ワイフだよ」
「キュアーーーッ!!」

一斉に黄色い声を上げる女子部員達。

思い出し笑いをしてしまうと同時に少し落ち着きを取り戻す事が出来た華音。

すると脳裏にはお母さんの顔が浮かんできた。今日も会場に来てくれている厳しくも優しい母の顔が。

次に部活仲間で1番の友達でもあるテナーサックスの友香。そして雨宮先生に他の部員仲間達、お祖父ちゃんお祖母ちゃん、従姉妹やペットのミニチュアダックスに、ここで思春期の少女であるが故に、やっと父親の顔が。

本当にリラックス出来ると同時に周囲の、ありとあらゆる物の存在を全く感じなくなる。

集中力が高まっている何よりの証拠だが今の琴音には、その実感すら無く、そんな中、音と歌声だけは鮮明に感じる事が出来、その曲の世界観をイメージした情景と自身が重なる様な不思議な感覚に陥ってしまう。

そして

「光る~リーフに波~♪」

その瞬間、華音の脳裏には先程の裕司の顔が浮かび上がった。

先程、重圧に怯え恐怖心に耐えられなかった自分を安心させてくれた裕司の笑顔が。

実は以前から裕司に対して淡い恋心を抱いていた華音。
他の大人、特に男性特有の威圧感を全く感じさせない『優しいお兄さん』という雰囲気に好感を持っていたのだが先程の思い掛け無い裕司の励ましが、あの時、華音のハートの奥底に小さな灯火を点けた。

そして今、その灯が激しく燃え上がると同時に胸の鼓動が激しく躍りだす。

緊張による物とは全く性質が異なる胸の高鳴り。

灯の向こう側に見える物。それは歌の世界に調和した華音と裕司の二人の姿。

正にSummer Dream

沈み行く太陽が、棕櫚と見つめ合う二人を照らし夕暮れへといざなう。

そして

「揺れて~I don’t wanna lose~♪」

無意識にマウスピースを咥える華音。

流れる様に自然で、尚且つ優しくも抜けの良い音色が場内に流れると観客は「おぉ~っ!」と響めいた。

瞳を閉じてメロディに息吹を込める。

瞼には今も裕司の笑顔が浮かんでいる。

12小節の短い物語に琴音は今、心の奥底からほとばしる胸いっぱいの感情を、その銀幕の世界に投影させた。

つづく

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