ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆191

完全に忘れていた。

真純達の御陰でこの数ヶ月間、全くの音沙汰無しであったのだが本当の意味で問題が解決した訳では無かったのだった。

この様な形、雄一郎の一周忌に線香を上げに来たと言われては、この招かれざる客人達の訪問を拒否する事も出来ない。

お茶の準備をしながら憂鬱な気分になる。だが、この時、澄子が気になったのは、その『相続人』達が醸し出してる雰囲気であった。

かつては、あれだけ歪み合い罵り合っていた8人程の男女が今はリビングにて柔かに談笑している。

尤も、傍から見ても作り笑いと判るそのわざとらしい表情は連中の存在の不気味さを尚の事、助長している様でもあった。

無言のまま茶でもて成すと

「奥様も相変わらずお元気そうで」
「………えぇ」
「あぁ、でも何だが今はお顔が優れない様ですが?」

貴方達がその原因だと言いたい所である。

「あぁ~っ!さっきの連中の相手をしてたからお疲れになったんですねぇ!」
「さっきの連中?」

先程家路に着いた真純達の事を言っているのだ。

「全く図々しい奴等だよなぁ!身内でもないくせに、こんな日に大挙して押しかけてくるなんて!」

自分達こそ。
因みに、この言葉の主はかつて神崎宅に忍び込もうとしてミカとユキに撃退された輩であった。

「これはやっぱり我々が力を合わせなければ大変な事になるかもしれませんよぉ!」

「ご安心下さい!今日から私共が神崎さんの力になりますので!」

妙なテンションで盛り上がる『相続人』達。

「ちょっと、一体何を言って……」
「今の今迄あんな柄の悪そうな連中に付き纏われて大変だったでしょう?」

「は?」
「これからは我々がこの家と神崎さんの財産をお守りしますのでどうかご安心を!」

その言葉に廻りの者達も頷く。

これで澄子も、この者達が考えている事を理解した。

早い話が自分達が相続するつもりでいる神崎家の財産が最近、自分と付き合いのある真純達の手に渡るのではないかと疑い、それを阻止したい様だ。
尚且つ共通の敵が出来た事により一時的に協定を結んだという所か。その解り易くも図々しい発想と行動力に呆れて物も言えなくなる澄子。

そして自分の家の様に勝手に寛ぎ出す『相続人』達。すると一人が

「あれ?何、観てたんです?」

テレビのラックの上に置いてあった1枚のディスク・ケースを手に取った。

「ちょっと、矢沢永吉って!」

それは先程、雄一郎の仲間達が訪れてきてくれた際に皆で観ていた『Z』のDVDであった。


「神崎さん、こんな趣味あったんですか?」
「あぁ、それは主人の……」
「バーカ!この奥さんにそんな趣味があるわけ無いだろう!」

年長の中年男に遮られる様に言われる。

「それじゃ何で?」
「決まってるだろ!さっきの連中だよ!」
「あぁ~っ!成程!!」
「道理で柄の悪そうな連中に見えた訳ねぇ!!」

大笑いし始める『相続人』達。

「矢沢永吉のファンってみんなヤンキーなんでしょ?」
「愚連隊みたいなのばっかりだよねぇ。ププッ!」
「以前この家の廻りを彷徨いていた女もそんな感じだったよ!」
「暴走族上がりでそのままヤクザに成る奴等も多いらしいぞ!」
「だからこの家を狙ってる訳だぁ!」
「でも何だって神崎さんがあんな連中と?」
「ほら、独り身で寂しいお年寄りの気持ちに漬け込んでさぁ」
「こうゆうの観せて洗脳する訳だね!」
「まるで宗教だな!」
「あんな連中と関わる程お寂しいのなら言って下さればよかったのに」
「そうそう!私達が幾らでも話し相手になりますから」
「だけどこれで益々僕達が力を合わせなきゃだよな!」
「神崎さん良かったですね!これであんな連中から…」
「黙りなさい!!」

突然、澄子が声を荒げた。その余りの大きさに絶句する相続人達。

その時の澄子の表情は普段の穏やかな人となりからは想像出来ない程に険しく相続人達に恐怖心を抱かせるのに充分であった。

「貴方達が私の交友関係をどう思おうと、それは勝手です!ですが彼等は私の主人の大切なお友達で今では私がお世話になり本当に良くして下さる方々なのです!その彼等を侮辱する事だけは絶対に許せません!!」

烈火の如く怒りを露わにする澄子。

『相続人』達は正に鳩が豆鉄砲を喰らった様なを地で行く表情のまま何も言えないでいる。

「出てゆきなさい!そして、もう二度と此処へは来ないで頂戴!!」

その余りの剣幕ぶりに沈黙してしまう相続人達。

シーーーンと静まり返り時間が止まったかの様なリビング。すると一人が無言で立ち上がり廊下へと出て行った。

それに続く様に一人また一人と立ち上がる。

最後の一人が出ていくのを見届けると澄子は内鍵を掛ける為に玄関へと向かう。

だがリビングの扉を出ると突然の目眩に襲われ澄子はそのまま気を失ってしまった。

つづく

コメント

  1. Baybreeze より:

    続きは・・・どうなるのかしら?
    心配だわ~~(笑)
    あ・・・笑ってる場合じゃない!
    あんまりドキドキ展開になると、目眩に襲われそうで(^_^;)

  2. AKIRA より:

    Baybreezeさん♪^^毎度です
    http://ip.tosp.co.jp/i.asp?i=BayBreeze
    さて、どうなる事やら(笑)
    目眩にお気を付けて次週をお楽しみにとゆう事で次回もヨロシクお願いします

  3. yukio_egawa より:

    AKIRA様
    また思い出したように訪問させていただきました。m(..)m
    番外編を含めて意外な展開で、わくわくします。
    続きを楽しみに、また立ち寄らせていただきます。
    yukio_egawa

  4. AKIRA より:

    yukio_egawaさん♪^^再びの訪問&コメント誠にありがとうございます
    番外編に関しましてはチョットおふざけが過ぎましたが何卒御容赦願います(笑)
    出来るだけ定期的にUPしていきたいと思いますので是非また居らして下さいませ

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