ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆242

この日は日曜日という事も有り、時計が終了予定の10時を示すと宴は延長する事無くお開きとなった。

店の前で仲間達全員に見送られ、澄子達を乗せたクラウンが走り出す。

「今日は、こんな遅く迄、私に付き合って下さって本当にありがとう!」
「いえ!こちらこそ普段じゃ体験出来ない色んな機会に恵まれまして」
「兄貴、楽しんでたもんなぁ!」
「うるさい!」
「うふふふふ」

神崎宅に到着すると助手席の護が後部座席のドアを開け、徹がトランクからダンボール箱を取り出す。
護が常時、預かっている合鍵で玄関を開錠しドアを開けると

「ミャア!」

ミィがいつもの様に玄関でお出迎え。

「ミィちゃん、ただいま!」
「ちゃんとイイ子でお留守番してたかぁ?」

護がミィの頭を撫でる。
気持ち良さそうに目を閉じて、もっと撫でてと言わんばかりに頭を突き出すミィ。
そこに徹が持っていたダンボール箱を廊下に置くとミィの興味が箱へと移り箱の廻りをクンクンと嗅いでは上から中身を物色しようとする。

「コラコラ駄目だよ!美味しい物なんか入ってないよ!」と徹。

箱の中身は澄子に贈られたバースデー・プレゼントの数々。

ミィは食べられそうな物が無いと解るとトトトトッっと小走りで奥へと引っ込む。
和やかな雰囲気の中、3人はミィを追い掛ける様にリビングへ。

徹が邪魔にならない端の方に箱を置き

「それじゃ我々はこれで」
「コーヒーでも飲んでいかれて」
「いやいや明日も早いので」
「澄子さんも今日はお疲れでしょうから早くお休み下さい」

家の外へと出る徹と護。
車へと向かう途中で護が足を止め振り返る。

「どうした?」
「いや………何でもない」

護は何か後ろ髪を引かれる様な感覚を拭えないまま助手席へと乗り込んだ。


「はぁ!」

ソファに座り、一息、吐く澄子。

暫し余韻に浸る。

疲れてはいるが眠気は無く、むしろ日中の興奮が未だ冷めずに身体の奥底で再び湧き上がるのを待っているかの様で、その高揚感がとても心地良い。

充実した一日であった。

こんなにも賑やかで中身の濃い、盛沢山な時間を過ごした事は徹や護達だけで無く澄子自身も生まれて初めてであった。

もし彼等と、雄一郎の仲間達と出会って無かったら、或は出会っていても彼等が自分と交流を深めてくれていなかったら、こんな経験をする事も無かったであろう。


「ねぇ裕司さん、長い旅っていう唄、どのCDに入ってるのかしら?」

ふと先程の眞由美の店での会話を思い出す。

「あれは、ゴールドラッシュってアルバムですね」
「ゴールドラッシュ?」
「これですよ」

と、愛美が店のラックから、そのゴールドラッシュのCDを持ってきて見せてくれる。

インパクトの有るそのジャケット・デザインに圧倒される澄子。



ソファから立ち上がり雄一郎の書斎へ。

部屋の灯りを点け棚の中から目的のCDを左端からゆっくりと探す。

リリース順に整理整頓されているお蔭で数多いアルバムの中から簡単に見付ける事が出来ると澄子はコンポにセットしてプレイ・ボタンを押した。

タイトル・ソングのイントロが流れ出すと雄一郎が愛用していた椅子に腰掛ける。

暫く無言で聴き入る澄子。

自然と今日のライヴの情景が瞼に浮かぶ。

そのシーンと流れている曲が見事に調和し今日の感動を再び思い出させてくれる。

正に興奮冷めやらぬ状態。

以前から面識の有る裕司の意外な一面に驚き、その裕司の仲間の見事な演奏と雄一郎や自分と仲良くしてくれた多くのYAZAWAファンが熱狂している姿。

本家、矢沢永吉のコンサートも、きっと、この様に楽しい空間であるに違いないと思うと同時に、それでも、その本家を観る機会に恵まれなかったからこそ彼等が自分の為に今日のライヴを開いてくれたという事に対して複雑な気分になりつつも改めて感謝の気持ちを感じる。

また、高校生達の初々しくも熱心な頑張りは前座も含めて実に清々しく澄子の気持ちを豊かにさせてくれた。

そして『タオル投げ』

話には聞いていたのと自宅で裕司達と共に観たDVDで予備知識は持っていたが、実際にその光景を目の当たりにすると、やはりそれは壮観の一言で、眼下で宙を舞う無数のタオルを観ているだけで不思議と、こちらの胸まで躍る様な感覚に陥り、そんな時、千晶が自分のタオルを手渡しては澄子に投げる様に促してくれた。

戸惑いながらも見様見真似で投げてみると会場全体と一つになった様な感覚、この空間、この瞬間を多くの者達と共有しているという新たな楽しみを見出す事が出来た。

だが何度目かのタオル投げで手元が狂ってしまいタオルを1階席に落としてしまう。

「ご、ごめんないさい!どうしましょう……」
「いいのいいの!どうせ永悟のだから」と悪戯っ子の様な笑顔の千晶。

所が、その直後に大きなボールの様に丸められたそのタオルが下から澄子の手元に戻ってくる様に投げ込まれた。

ビックリする澄子の横で千晶が

「ありがとうございまーす!」と1階席に叫ぶ。

下を覗き込むとステージで唄ってる裕司と同じ様な出で立ち、パナマハットに白スーツ姿の一人の男性が笑顔で親指を立てていた。

「あっ!あの人、知ってる!」と千晶。
「お知り合いなの?」
「ううん!違うんだけど、あの人と、そのグループ、いつも武道館でライヴ終わった後に会場のゴミ拾いしていくの!」
「まぁ!」

現に、その男性と仲間達は、その日もライヴ終了後にゴミ拾いを始め、それを見た廻りの観客も同じ様に自分達が利用した席の整理整頓を行い、その光景はライヴの熱狂とは違う感動を澄子に与えてくれた。

つづく

コメント

  1. Baybreeze より:

    あんまり哀しい成り行きにしないでね!なんだか不安
    読んでいて15~6年前のSUBWAY EXPRESSツアーのクラブチッタを思い出しました。
    あの頃まだ一部の人はあまりお行儀のよくなかったのかな~・・・・
    たくさん落ちてたゴミや煙草の吸殻を拾い集めてゴミ箱に持って行ってから
    私は会場入りしたのでした(一人で・・・(笑)

  2. AKIRA より:

    Baybreezeさん♪^^いつも本当にありがとうございます
    http://ip.tosp.co.jp/i.asp?i=BayBreeze
    あ~っその~現時点では最後まで見守って頂ければとしか申し上げられませんで・・・・・
    >たくさん落ちてたゴミや煙草の吸殻を~
    流石です
    しかも御一人でなんて、全国のYAZAWAファンにお伝えしたい位です
    実はこの白スーツの方々は実在するのですが、こうゆうカッコいいYAZAWAファンがいらっしゃるって事はゴミを置いてく輩も居るとゆう事で美談であると同時に何とも残念な話でもあります
    今年はカッコいいけど上記の方々の活躍を必要としないライヴである事を願いたいですね

  3. らきあ より:

    初めまして。私、北関東地方都市在住の、今年50歳になる
    イイおっさんです。
    イヤー相当感動しました。素敵な物語ですね。
    先週の土曜日に偶然このブログに到着しました。
    あまりの面白さに一気に本日までに読んでしまいました。
    私は中2で永ちゃんと出会い、今日までずっと応援させて
    いただいております。
    読みながら、時には30年前、時には20年前、10年前を思い出し
    大変懐かしい事を思い出しながら、感動をいただきました、
    有難うございます。
    24年前、私の結婚式も新郎新婦の入場はスタイナーから逃亡者でした
    キャンドルサービスは、二人だけ、からa dayでした。
    もちろんカミサンも偶然にも永ちゃんファンでした。
    物語、続きを楽しみにしております。
    あまりの嬉しさゆえ、突然コメントするご無礼、お許しください。

  4. AKIRA より:

    らきあさん♪^^初めまして&ようこそいらっしゃいどーも
    こちらこそ我がblogに訪問、並びに嬉しいご感想の書込みありがとうございます
    自分は、らきあさんに比べたら新参者のYAZAWAファンですがベテラン・ファンの方から好評を頂き尚且つ多くのYAZAWAファンの思い出に少しでもリンクする描写が出来たのであれば、それは何とも嬉しい限りであります
    この女トラもクライマックスを迎える段階に入りましたが良かったら奥様もご一緒に、また遊びに来て下さいませ

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