ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆198

篠原莉奈が矢沢永吉ファンに成ったキッカケは他の多くのファンと違い、かなり変わった物であった。

そのキッカケとは中古車。

莉奈が19歳の時に普通免許を取得して現在の旦那でもある彼氏と一緒に初めての車を買いに、とある中古車店を訪れ幾台もの軽自動車を見ていると一台のダイハツ・ムーヴに目が止まった。

既製の物では無い、後から塗装された薄いピンクメタリックのボディが綺麗で可愛らしいのだがそれ以上に目を引いたのがリア・ウィンドゥ。

何とYAZAWAの羽根ロゴ・ステッカーが貼ってあったのだ。


しかも、よく見るとサイドにもフデロゴがボディよりも少し濃い目のピンクでペイントされており反対側も同じ様に矢沢永吉の横顔のシルエットがさり気ない雰囲気で描かれている。

その為か他の車より走行距離も少なく程度も良いのに値段は手頃。

莉奈は矢沢ファンでもないのに何故か、その車に惹かれてしまい彼氏の反対意見を無視して購入を決める。

だが納車されると家族は「ご近所に恥ずかしい!」と顔を顰め友達からの評判も悪く「だから止めておけって言ったジャン!」と彼氏にも言われヘコみ気味だったのだが、ある日、そのYAZAWA車で第三京浜を走行していると後ろの車がパッシングしてきた。

始めは煽られているのかと思った莉奈。すると、その車が右車線へと移り横に並んできた。

恐怖心を感じつつも気になって横を見ると助手席に座っている女性がこちらを向いてニッコリ笑って手を振っているではないか。

その車は莉奈のムーヴよりも遥かにバリバリYAZAWA仕様のグランビアであった。

驚きつつペコリと頭を下げる莉奈。

奥の運転席の男が親指を立てているのが見えると、そのままグランビアは追い越し車線を走り去って行った。

それからはコンビニ、スーパー、コインパーキング等で「永ちゃんファンですか?」と色んな人から声を掛けられる様になり、その度に「あぁ、はい。成り立てなんですけど……」と嘘を吐くのが習慣になってしまうも

「成り立てなのに、こんな車乗るなんて気合入ってるねぇ!」
「カッコいい!!」
「また上品な色合いだよねぇ。お姉さん良い趣味してるよ!」
「写メ撮らせて貰っていいですか?」


という、友好的な人達が発してくれる自分の身内とは正反対の言葉が何だか嬉しかった。

同時にファンのフリをしている事に罪悪感を感じてしまい、これじゃいけないと少しでも矢沢永吉の事を知る為にCDを購入。

それが当時のニュー・アルバムであった『STOP YOUR STEP』であった。


初めて聴いて率直に思った莉奈の感想は「矢沢永吉って歌、上手いんだ!!」

矢沢永吉の名を知らぬ者は居ないに等しいが、その知名度の割にアーティストとしての実力を認知してる者は意外に少ない。

それまで同級生や彼氏が持ってるJ-POPのCDを時々貸して貰う位しか音楽を聴かなかったのに初めて耳にするYAZAWAのロックは意外にも莉奈の耳と心にすんなりと馴染んでしまった。

因みにこの頃の莉奈のお気に入りの曲は当然♪リナであった。

それからはベスト盤を買って車の中で掛けまくり彼氏、家族、友人から益々顰蹙を買う事になるのだが車を買って2年後の有る日、ガソリンスタンドで給油してると一人の女性客が「これ貴女の車?」と声を掛けてきた。

何と、その女性は車の元の持ち主であった。


つづく

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