「久しぶり!」
「お、おぅ……」
笑顔の女は対照的に敏広の表情は冴えない。
同時に、この時、賢治と裕司も同じ様な顔をしていた。
鮫島美由紀は敏広達の同級生で当時、女子新体操部のキャプテンでもあった。
当時、学校一の美人と言われ成績も優秀。新体操の方も運動部の弱いサギ高の中で唯一実業団からの誘いが来る程の実力で下級生の憧れの的であったが性格も学校一キツいので同年代の男子からは不評な生徒であった。
また例の文化祭の一件《083参照》も有り、事ある事に軽音部、とゆうよりYASHIMAを目の敵にしてた様な所があったので女好きな敏広が唯一苦手としていた女子でもあった。
「バンド、続けてたんだ」
「あ、まぁな……」
「碧から話を聞いてさ。何か凄く懐かしくなっちゃって」
「そっか…」
「うん」
「………お前は?足は大丈夫なのか?」
「あ、うん。でも新体操は諦めた」
「そっか…」
「うん」
美由紀は3年最後の大会で左膝と足首を二重で負傷してしまい卒業後は治療の為、一年間を棒に振り一浪して大学に進学。現在は大手化粧品メーカーに勤めていた。
その為、化粧も上手で眩い程の美貌なのだが、それでも学生時代の苦手意識は拭えない。
「他には?」
「えっ?」
「無いならそろそろ行くぜ。本番控えてるからな。まさか、お前が来るとは思わなかったが」
「…………」
「まぁでも折角来たんだったら楽しんでってくれ。じゃあな」
踵を返す敏広。
「待ってよ!」
「何だよ?」面倒臭そうな表情の敏広。
「まだ……話、終わってない」
美由紀の要望で二人は誰も居ない2階ロビーへと場を移す。
「で?話って何だよ?」
「…………」
「また、あの頃の恨み節の続きか?」
「そんなんじゃ無い!」
「じゃあ何だよ?」
「……その事を…謝りたくて…」
当時の美由紀はYASHIMAと軽音部に対する不平不満を普段の学校生活にも露骨に態度に表し新体操部員もそれに同調。また、キャプテンの美由紀が部員達を殊更煽っていた様な所も有った。
「あれは……ホントに、ゴメン!………アンタ達が悪いんじゃ無いもんね」
「やっと判ったか」
「前から判ってたよ!だけど………言わずに居られなかったってゆうか」
「しつこかったよなぁマジで」
「うん………子供だった。御免なさい…」
「まぁ……もういいさ」
「……………だけど」
「まだ何か有るのかよ?」
「だけど少しは判ってくれると思った。私の気持ち………」
「そりゃ結果的には軽音部、ってゆうか俺達が新体操部に少なからず迷惑かけたのは事実だからな。だが、それに関しちゃ、あの時ちゃんと謝ったろ?」
「………うん」
「にも関わらず同じ事でネチネチ言われ続けたら自分だってウンザリするだろ?まぁでも今さっき謝ってもらったしな。もうこれでこの話は終わりにしようぜ」
「………うん」
「それじゃもういいか?」
「……………」
無言になる美由紀。
敏広は何も言わずその場から立ち去ろうとする。その時
「……アンタ、女ったらしのクセに全然女心判らないよね」
「何だそりゃ?」
「私があの時アンタに嫌味言い続けたのは!」
声を荒げる美由紀。
「……アンタと…アンタと話す…………会話するキッカケが欲しかったからだ」
「………意味判らん」
「だから!…アンタと!………その……」
下を向いてしまう美由紀。
「………まだ、解らないか?」
「何がだよ?」
「もう鈍感!!」
「言いたい事が有るならハッキリ言えよ!」
「………きだったんだ………」
「何だ?聞こえねぇよ」
「……………好きだったんだ!アンタが!!」
「……………あんだってぇ!?」
余りに予想外の告白に敏広は往年の志村けんの様なリアクションしかする事が出来なかった。
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