Mr.ゴーンの練習は賢治の自宅にある元々は物置だったブロック塀の小屋を自分達で改築してスタジオ代りに利用していた。
練習は不定期であったがテスト期間以外は、ほぼ毎日練習に明け暮れた。
そして練習が終わると週3回は賢治の部屋でミーティング。
ミーティングと言っても、その中身は色んなバンドの音源やライヴ映像の鑑賞会で時に健康な男子故にアダルトビデオの鑑賞会になる事もしばしばであった。
そして1994年11月26日。
賢治の部屋でコーラとデリバリーのピザを食しながらテレビ雑誌を見てた敏広が口を開いた。
「今日、矢沢永吉のライヴが生中継だってさ」
「へぇ~」と大して興味を示さない他の3人
尤も敏広も、ただ言ってみただけであった。
「何チャンで?」と賢治。
「WOWOW」
この時点で特に観たい映像は賢治の部屋には無かった。
ライヴビデオはいずれも3回以上は観てるしAVも新しいネタが無いので賢治はBGM代りと思いテレビを点けWOWOWにチャンネルを切り替えた。
調度これから始まる様である。
「まぁ1度位は観ておいてもいいかもな」と敏広。
この頃の敏広達が矢沢永吉と聞いて連想するのは名前だけはよく聞くが缶コーヒーのCMと退屈なドラマに出てるオッサンとゆう印象が正直な所であった。
スーツ姿の男達に護衛されてる様な形で矢沢永吉がステージに現れる。
ここで敏広達は噴き出した。
「まるでヤクザだな」
賢治の一言に皆、同意見であった。
「こりゃ違う意味で楽しめるかもな」
この時点で敏広達は珍獣でも見て嘲笑してやろうとゆう気分になっていた。
だがその珍獣と思ってた矢沢永吉が歌いだすと徐々にではあるがそんな気が失せてきたのだ。
YAZAWAの歌声、表情、一挙手一投足に段々と引き込まれていき♪”カサノバ”と囁いて、の頃には完全に画面に釘付けになってしまった。
「なぁ・・・・・俺、今、矢沢永吉が凄ぇカッコよく見えるんだけど・・・」
敏広が素直な感想を述べる。
「実は俺も・・・」
「俺もそう・・・」
賢治、裕司も同意する。
「凄ぇ・・・マジ凄ぇよこの人!」
「日本にも居たんだな。こんな凄いアーティスト!」
「この人マジで世界レベル・・・いやトップ・クラスだよ!」
♪紅い爪の頃になると3人は正座をして観る様になった。
始めの嘲笑してやろうとゆう態度の反省の表れである。
だがそんな中、一人だけこの場に馴染んでいなかったのが例のドラムであった。
「なぁ、まだ観るのこれ?」
3人は返事をしない。
「そろそろチャンネル変えない?」
「うるせぇよ」
「何が面白いんだよこんなの」
3人の視線がドラムの方に向う。
「お前、これ観て何とも思わないの?」
「何が?」
「いや、だからさ、このライヴ観て何も感じないワケ?」
「・・・別にぃ」
「お前マジで、この凄さが判らないの?」
「ただのオッサンじゃん!」
敏広達3人は互いの顔を見合わせる。
考えてる事は同じであった。
感じ方は人それぞれだが少なくともこのドラムが音楽的審美眼を持ち合わせて居ない事を敏広達は今更ながら確信した。
だから全くと言っていい程こいつは上達しないのだ。
そして再びドラムの方を見て一斉に口を開いた。
「お前クビッ!!」
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