「よう!久しぶりだな!」
「あ、ご無沙汰してます!」
賢治も立ち上がって敏広と一緒にお辞儀をする。
「あぁ、裕司達は初めてだったよな?こちら吉岡清純さんだよ」
「えぇ!あの!?」
吉岡清純
日本のジェフ・ポーカロと呼ばれるスタジオ・ミュージシャンで国内外の音楽関係者から絶大な信頼を得ているグルーヴ・マスター。
また、哲也のドラムの師匠でもあり、敏広と賢治は大学時代に哲也の誘いで何度か清純のライヴを観に行っては、その後の打ち上げにも呼んで貰った事が有るので旧知の仲でもあった。
一人一人と握手を交わした後に
「ロンドンでのレコーディングが急にキャンセルになったもんでな。暇になっちまったから俺で良かったら使ってくれ」
「い、いや、そんな恐れ多い!」
「よ、宜しいんですか?うち等の様なアマチュア・バンドに?」
恐縮しっぱなしの敏広と賢治。
「いいも何も、だからこうして此処に来てるんじゃないか」と笑いながらドラム・セットへと向かう。
「あ、ありがとうございます!」
「あ、それで今回のライヴなんですけど………」
「一応、哲也から詳細は聞いてるよ。永ちゃんだろ?面白そうじゃん」
手際良くドラムの調整を進める。
「それじゃ時間も限られてるから早速始めようか」
ドンッ!ババン!
メチャメチャ音抜けの良いバスドラとスネアーが響く。
「あ、はい!」
それぞれのポジションに着くYASHIMAのメンバー。練習が始まる。
あっという間の4時間であった。
休憩を挟む間も無く、いや正確には休憩すら忘れて練習に没頭してしまった。
今回の練習の感想は、と問われれば只々楽しかった。メンバー誰もがそんな心境であった。
「もう時間か。それじゃ今日はこれで締めようか」
「はい!」
「あ、それでアレンジとか何処か変えた方がいいでしょうか?」
「今のままでいいんじゃないか?何でだ?」
「いえ他に良いアレンジが有ればアドバイス頂きたいなと……」
「止めた方がいい。時間が少なすぎる。今はゲネプロに集中してこのアレンジを徹底的に頭と身体に叩き込むんだ。余計な事に気を取られたらライヴは必ず失敗する」
「あぁ、確かに」
「だけど今日聴いた限りでは明日にもで本番が出来そうな仕上がりだな。大したもんだ!」
「あ、ありがとうございます!」
「哲也がお薦めなのも理解出来る。それで明日の練習場所は学校だって?」
「えっ?そっちにも来て頂けるんですか!?」
「行かなきゃドラムを担当する意味無いだろ。時間は今日と同じでいいか?」
「あ、はい!」
「それじゃ今日はお先に失礼するよ。嫁さんをディナーに連れて行かなきゃならないんでな」と笑いながら
「それじゃまた明日!」
「お、お疲れ様でした!」
清純が退出するのを見送ると敏広達は歓喜の溜息を吐いた。
「スゲェ!やっぱ超一流だっ!!」
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