ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆223

そして、いよいよライヴ当日

最終リハの為、前日同様、朝9時に会場に集まると駐車場には既に数台のYAZAWA仕様車が停まっていた。

数時間後には他のスペースも様々なYAZAWAカーで埋め尽くされ、その光景は本物の矢沢永吉のコンサートと勘違いしてしまいそうな程に壮観で、道行く人々の目を否応なしに引き付けた。

開場時間は午後2時でYASHIMAの出番は2時間後の4時からの予定。

3時からは前座という事で鷺沼平高校吹奏楽部の1年部員による演奏も40分間プログラムに組み込まれていた。

前売りは無くチケットは全て当日、会場窓口で販売され一律2,000円の全席自由。

ただ1階2階共に中央ブロック最前列と2列部分は招待席として確保されていた。

やがて開場時間になりメンバーは揃ってエントランス・ホールにて来場客を出迎える。

「ようこそいらっしゃませ!」

YAZAWA繋がりの身内、顔見知りは勿論、面識は無いが人目で永ちゃんファンだと判る者、かつての学友達、また吹奏楽部員の父兄と思われる家族連れ、それからネットの情報で今回のライヴを知った吉岡清純目当てのアマチュア・ミュージシャン等、来場者は多種多様であった。

「頑張れよ!今日は!」
「盛り上げてね!」
「ありがとうございます!」

剛健とその仲間に、眞由美の店の常連客等、顔馴染みの者達から激励を受ける。

「先輩!お久しぶりです!」
「おぅ!よく来てくれたな!」

サギ高軽音部時代の後輩も多く訪れてくれた。

「マナカナ!久し振りぃ~!」
「キャーッ!来てくれたのぉ~!」

加奈子と琴音の音大時代の学友もグループで来訪。

「ねぇコットンは?」
「控え室でスタンバイ中」

メンバーがそれぞれ再会を懐かしんでいると、そこに残暑だというのに革ジャンを着ては、20センチは超えてるであろう超高リーゼントにレイバンの、いわゆる大門グラサンをかけた一人の男が近付いてきた。

「松岡!矢野!汐崎!久しぶりだな!!」
「か、加藤先生!?」

それは敏広達の恩師で最初のYAZAWA仲間でもある加藤豊であった。

「わ、態々、新潟から来てくれたんスか?」

豊はサギ高教員を辞職後、故郷の新潟に戻り予備校講師をしていた。

「まさか来るとは思わなかったか?知らせてくれてありがとよ!」

相変わらず声がデカイ。

「こちらこそ有難いですけど………何スか?その頭!」

賢治達も豊がリーゼントにしている姿は初めて見た。

「気合だ気合!!」

元教師とは思えない出立ちと良い意味での暑苦しさに麻理子も裕司の横で圧倒されている。

「結構、入ってるなぁ!」

今度は柏田哲也が松葉杖を付きながら一人の女性と一緒に来場してきた。

「て、哲也さん大丈夫ッスか?」

既に退院していたが完治までには至っていない。

「大丈夫大丈夫!付き添い同伴だし!」

この付き添いの女性は哲也の担当だったナースで今回のライヴの件を話したら興味を持ってくれ偶々休みだった事もあり自分から「行ってみたい!」と申し出てくれた。
因みに、これが縁でこの二人は後に付き合う事になる。

「おぅ哲也、あんまり無理するなよ!」
「吉岡さん!今回の件、本当にありがとうございます!」
「礼を言いたいのは俺の方だよ。仕事抜きで純粋に楽しめるライヴは久し振りだからな」


そして、その頃、今回の主賓が会場にまで到着した。

徹の運転するクラウンの助手席から護が後部座席へと廻りドアを開ける。

ゆっくりと車から降りる澄子。

「まぁ!綺麗な会場ねぇ!」

その真新しい外観を暫し眺める。

「車椅子、出しましょうか?」
「大丈夫!今日は何だか調子が良いの」

関係者専用入口で真純が3人を出迎えてくれ、ほぼ同時に到着した眞由美と拳斗、そして愛美夫婦と共に入場。

「澄子さん!いらっしゃいませ!」

麻理子とYASHIMAのメンバーが澄子達に駆け寄る。

「今日は、お招き頂いて本当にありがとう!」
「いえいえ!こちらこそ、ご来場、誠にありがとうございます!」
「楽しみだわ。こんな素敵な会場で皆さんの演奏が聴けるなんて」
「期待して下さい!素晴らしい演奏を披露してくれますから!」
「ちょっとちょっと麻理子ちゃん!遠回しにプレッシャーかけないでよ!」

笑いが起こる和やかな雰囲気の中

「あの、若林さん」

護が小声で拳斗に話掛ける。

「はい」
「実は折行って御相談したい事が……」

更に小声になる護。

「何でしょう?」

周囲を事の他、気にしている護の様子を察した拳斗。二人は、さりげなくその場から離れる。

「まもなく、鷺沼平高校吹奏楽部1年生による演奏が始まります」

前座の開演時間が迫り場内アナウンスが流れると

「彼等の演奏も聴いてあげて下さいよ!お世辞抜きで本当に上手ですから!」

敏広の言葉に従い眞由美達は1階席の入口へ。澄子と真純、徹はエレベーターで二階へと向かった。

そして、定刻通り1年生の演奏が始まり殆ど人気の無くなったロビー。

「何か、もう疲れちまったぜ」と苦笑する敏広。
「それじゃ俺達も控え室に戻るとするか」
「そうだな」

移動しようとしたその時

「松岡!」

突然、女の呼ぶ声が聞こえてきた。
反射的に振り返る敏広達。

「あっ……」
「鮫島……」

敏広達の表情が曇った。


つづく

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