第一章
ニュース速報のテロップがテレビ画面上部に表記されると、ほぼ同時に映像が千代田区隼町、最高裁判所前に切り替わった。
「人権剥奪!野々山被告、人権剥奪です!!」
若い男性アナウンサーが息を切らせながらテロップと同じ内容を叫ぶと今度は画面が、とあるテレビ局のスタジオ内に切り替わる。
「番組の途中ですが、ここで報道特別番組に移らせて頂きます」
JBC(ジャパン・ブロードキャスティング・コーポレーション)ニュースのメイン・キャスター、桜井遼子が硬い面持で告げる。
その左隣には黒縁眼鏡にチョビ髭で頭の薄い初老の男性が座っていた。
「お話は、いつもの様に御手洗宗一先生にお伺いしたいと思います」
「どうも!御手洗雲国祭です!テヘッ!!」
カメラにVサインを向け舌を出しお道化る御手洗。一応これでも日本を代表する知識人である。
スタジオ内と茶の間に嫌ぁな空気が漂う中
「先生、早速本題に入りたいのですが」
遼子の冷めた物言いが、それを打ち消す。
「あぁ、はい。そうですねぇ………」
御手洗による紹介時の小ボケは毎回のお約束なのだがウケた試しが無い。
ここで、この御手洗宗一について少し紹介しておきたいと思う。
最高学府、日本帝都大学(旧東大)法学部教授。国際法の権威でも有り世界が尊敬する著名人のランキングで常に上位に選ばれる日本の頭脳。
著作も多数出版しており世界各国で翻訳。そのどれもが法曹界、国際政治に関わる者のバイブルとされ博識だが知識人特有の鼻持ちならない雰囲気が無く、親しみやすい人柄故に世界中から愛され尊敬されていた。
ただ、時に全く面白くないジョークを連発しては周囲に余計な気遣いをさせ、因みに【御手洗雲国祭】名義でジョーク集も出版しているが、そちらの売り上げは芳しくない様である。
「今回の、この野々山被告に対する判決を御手洗先生はどう思われますか?」
「当然、妥当だと思いますねぇ。あんな事件を起した訳ですし。そもそも国民裁判(*01)まで持っていく必要が有ったのかどうか」
「事件当時は元、国会議員、しかも閣僚経験者によるものとゆう事で社会にも衝撃が走りました」
「まぁ、この方は以前、法務大臣をやられてた時に自身のポリシーに反するとかで死刑執行の判を一度も押さず、しかもご本人は、それを誇らしげに思ってた様で」
「職務放棄だという批判も当時は出ましたね」
「正に適材適所だって皮肉も言われてましたなぁ。で、ご存じだとは思いますが、この野々山被告は元々、弁護士で、しかも、いわゆる人権派の代名詞的な存在で」
「死刑反対の立場を取ってらっしゃいましたね」
「そういう人物が人権剥奪されたってぇのも、これまた皮肉な話ですねぇ」
「議員経験者としては今回初めて、人権剥奪とゆう判決が下された訳ですけど、先生、ここで改めて、この【人権剥奪】についてお浚いをして行きたいと思うのですが」
*01.国民裁判/納税者が自由意志でネット回線を通じて裁判員として参加出来る制度。
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