「いやぁ、ゴメンナサイ!脅かしちゃって」
「あ、いえ…」
1階のリビングに通される絵美里。
「まぁ座って!」
自宅なのに、まるで自分が客人の様な扱いを受ける。
「コーヒーと紅茶、どっちがいい?」
「えっ?」
答えに困る。
「紅茶でいいかな?」
「あ、はい…」
氷の入ったグラスが置かれペットボトルからストレート・ティーが注がれる。
「このフルーツ・タルト美味しいから食べて!」
【少年A】がネット通販で買ったケーキを振舞う。
甘い物は大好きだが、今は目の前のスイーツに舌鼓を打つ気にもなれない。
一方の【少年A】はタルトに被りついてはグラスの紅茶を一気に飲み干し手酌で注ぎ足す。
「野々山さんから色々と話は伺っているよ。欧漫高校に通ってるんだって?」
クチャクチャと音を立てながら口を開く【少年A】
「あぁ、はい…」
「頭、良いんだねぇ!!でも野々山さんのお嬢さんだったら当然かぁ!」
「は、はぁ…」
「だけど野々山さんは出加陳女学院に行かせたかったってボヤいてたよ!でも、どっちもハイ・レヴェル進学校なんだからいいのにねぇ!あぁ、だけど出加陳女学院だったら大学までエスカレーター式だし、何より女子校だからパパとしては、そっちの方が良かったのかな?」
何て事の無い日常会話も今の絵美里には苦痛でしか無かった。
想像していた人物像より、まともな印象を受けたが今、目の前に居るのは元、殺人犯。
出来る限り自分の心中を相手に知られない様に平静を装ってはいるが、本当なら罵詈雑言を浴びせてやりたい程に絵美里は【少年A】に対して激しい嫌悪感を抱いていた。
この男の犯した罪は女として絶対に許せないし、父親が事件に関わってしまった事で自分まで周囲の者達から白眼視され、今は不自由な生活を強いられている。
何より自分は、こんな父親の同居人と世間話をする為に帰ってきたのではない。
「所で今日は何しに帰ってきたの?」
「えっ!?」
思いが通じてしまったのだろうか?
「あっ、実は私物を取りに…」
「私物?」
「はい。そろそろ衣替えの季節だし…制服も私服も夏服しか持っていかなかったから…」
【少年A】の表情が硬くなる。
「あの、それ取ったら帰りますんで…」
立ち上がる真美。
「あっ!2階は今、上がれないよ!」
「えっ!?何で…」
「その…今、2階はリフォーム中だから」
「リフォーム?」
怪訝な顔になる絵美里。
「あっ、でも服とか取るだけなんで…」
「駄目駄目!野々山さんや…えっと業者さんからも2階には上がるなとキツくいわれてるんだ!」
だが、さっき、この男は階段を降りてきた。
「その、何なら後日、改めてこっちから宅配便で送るよ!」
どうにも可笑しい。自分を2階へと行かせたくない様だ。
「そんな、結構です」
「いやいや遠慮しなくていいから!」
両手を広げて通せんぼをする【少年A】
遠慮では無い。私物を見ず知らずの男に触れられるなんて女子としては冗談ではない。
その時
ピンポーン!
呼び鈴が鳴った。
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