ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆164

何かに導かれる様に武道館の前に迄やってきた遥子。

思えば此処に訪れたのは高校の時に麻理子と初めて観たビリー・ジョエル以来。

暫し無言で武道館を見上げる。

此処に来れば何か有ると。何故だか解らないが、漠然と、何か見付かるのではないかと思った遥子。

だが来てみたら益々、虚しさが増すばかりであった。

「馬鹿だな私…………何やってるんだろう」

賑やかな周囲と裏腹に一人ポツンと佇む。

「姉ちゃんチケット余ってない?」
「無いなら有るよ。アリーナ有るよ」

次々と現れるダフ屋の声も遥子の耳には入らない。
達郎と『決別』した時よりも更に虚しさを感じる遥子。もはや酒を飲む気すら失せてしまった。

「………帰ろう」

肩を落とし力なく駅の方へと歩き出す。だがその時

「ねぇねぇ!ちょっと!!」

一人の若い男が追いかけて遥子の肩を叩いた。

「やっぱり!!」
「……あっ!!」

敏広であった。

「久しぶりじゃん!元気してた!?」
「う、うん!ホント久しぶり!!」

自然と遥子も笑顔になる。

「おい賢治!裕司!カノジョだよ!ほら、ザナドゥの!」
「おぉーっ!」
「久しぶり!」
「神崎さんも憶えてますよね?」
「あぁ!勿論だよ!」

思わぬ再会を果たした遥子と敏広達。

「まさか遥子ちゃんも永ちゃん観に来たの?」と賢治。
「あ、ううん、違うんだけど………」

返答に困る。

「た、たまたま近くを通って……そしたら急に君達の顔が見たくなってね」

ちょっと無理が有るがあながち嘘では無い。

「おいおいマジかよ嬉しいねぇ!!」
「バーカ!社交辞令に決まってるだろ」
「それはそうと明日は武道館の後にザナドゥに行くつもりだったんだよ。遥子ちゃん目当てで!」
「あら、嬉しいけど私もうあそこではバイトしてないの。就職しちゃったから」
「ほらやっぱりそうだったじゃんかよ!」
「いいじゃねぇか!今その事実が判ったんだからよ!」

笑う一同。不思議と遥子も晴れやかな気分になる。

敏広達との再会は一時ではあったが遥子の今現在の日常を忘れさせてくれた。
何より酒の力を借りる必要が無く気分転換を図る事が出来たのが有難い。

話が一段落すると
「あ…それじゃ私、そろそろ失礼するわ。コンサート楽しんできてね」

帰ろうとする遥子。だが
「あっ、ちょっと待って!」敏広が呼び止める。
「遥子ちゃん、この後、何か用事とか有るの?」
「えっ?……無いけど」
「実はチケットが急遽一枚余っちゃってさ。良かったら永ちゃん観てかない?」
「えっ!?」
「神崎さん、いいですよね?」
「ワシは構わんよ。むしろ大歓迎さ!」

思いがけない展開。

「………いいの?」

遥子は敏広達の誘いに素直に甘えたくなった。

つづく

コメント

error: Content is protected !!
タイトルとURLをコピーしました