「実は私、中学生の頃に虐められてたんです」
中学2年の始めの頃、里香にはその自覚が全く無かったのだが、ある事がキッカケでクラスのリーダー的存在、悪く言えば仕切り屋の女子の機嫌を損ねた様で、そのグループから目を付けられ、最終的にはクラス全員から無視をされる様になってしまった。
何人かの友達も自身に虐めが及ぶのを恐れて、その仕切り屋グループに屈してしまい担任の先生はアテならず、この頃、学校に里香の味方は一人も居なかった。
3年生になっても虐めは続き、中学卒業後は逃げる様に地元から離れた横浜の高校に進学。
虐めからは開放されたが中学時代のトラウマのせいで自分から友達を作る事に臆病になってしまっていたのだが、そんな時に同じクラスの一人の男子と仲良くなり、その男子が矢沢永吉ファンであった。
二人は付き合うまでには至らなかったが、この男子は里香に色々な面で良い影響を与えてくれた。
「矢沢ならこうするぜ。永ちゃんならこう考えるぜってホント永ちゃんに成りきって色んな事を話してくれました」
クスクス笑いながら話す里香。
「男はみんな同じね」と眞由美も笑う。
その男子の影響で里香も徐々に矢沢永吉に興味を持ち始め翌年にその男子に誘われて武道館に参戦。
後は言わずもがな。どっぷり矢沢ワールドにハマってしまうのであった。
だがその後、この男子は3年進級を目前に事故で急死。
里香はその時にやっと、その男子に対して特別な感情を抱いていた事に気付いた。
「何もかもが嫌になって死んでしまいたいとさえ思いました。でもその時に彼の声が聞こえたんです。里香よぉ、こんな時、矢沢ならこう生きるぜって」
涙ぐみながら話す里香を優しい眼差しで見つめる眞由美。
「それで気持ちを切り替えようと思いました。永ちゃんの様に生きる自信は無いけど、私に大切な物を与えてくれた彼の為にもメソメソするのは止めようと」
眞由美はロックグラスを3つ出し、氷を入れてバーボンを注いだ。
里香のウーロンハイのグラスを退かして一つを里香の前に。もう一つを誰も居ない里香の隣にコースターと共に置く。

「そのYAZAWAな彼に…」
眞由美は最後の一つのグラスを掲げた。
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