ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆026

その日以来、神園里香は、ほぼ毎日の様にOpen Your Heartに訪れた。


7時の開店時間と同時に一番乗りで来店してはドアに一番近いカウンターに座りウーロンハイを注文。
自分から話を切り出すのが苦手な様で、いつも眞由美が話題を提供する役目であった。
だが話を振ると里香は正に立て板に水の如く喋り出し眞由美は終始、聞き役に徹した。
しかし他の客が来店すると途端に喋るのを止め帰り支度をしてしまう。
よって滞在時間は、せいぜい30分程度。早い時には来店5分で撤収なんて事もあった。


また来るのは決まって月~木曜の間で来客が多いであろう週末は意図的に避けてる様であった。


その間に眞由美の『不自然』な感じは一向に解決しないままであったのだが一月程が経過したウィーク・デイのある日


「こんばんは」
いつもの様に里香が一番乗りでやってきた。
「いらっしゃい」
眞由美が微笑む。
いつもの場所に腰掛ける里香。
そしていつもならコースターと、おしぼりが里香の前に置かれるのだが、この時、眞由美はカウンターから出てきてネオンの電源を切り、ドアを明けてプレートを『CLOSE』に裏返し、鍵を閉めた。
明らかに店仕舞いの行動である。


不思議に思ってる里香に眞由美が告げた。
「今日は貸切よ」
「あ、そうなんですか?」
残念そうな表情の里香。
「すみません。それじゃまた来ます」
「違うわ」
帰ろうとする里香を止める眞由美。
「貸切客は、あなたよ」
「えっ!?」
「いいから座って」
困惑する里香を止まり木に座らせカウンターに入ると眞由美はウーロンハイを二つ作り始めた。
コースターとお絞りを置いてグラスを一つコースターの上に置く。
里香がグラスを手に取ると眞由美はもう一つのグラスを里香のそれに合わせ一口、飲んだ。
仕事中はどんなに客に勧められてもアルコールを絶対に口にしないのが眞由美のポリシーなのだが、これから先は仕事ではないとゆう事と、そして相手と同じ物を飲むとゆう行為が眞由美なりの相手に対する友好の表現であった。


「私に何か話したい事があるんでしょ?」
「え?」
「聞いて欲しい事と言った方がいいかしら?」
「それは・・・」
「遠慮する事無いわ。私達、矢沢仲間じゃない」
「仲間・・・」
「邪魔者は入ってこれないし、今夜はトコトンあなたに付き合うわ」
「眞由美さん!」


目尻を指で拭いながら里香は、ゆっくりと話し始めた。


つづく

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