ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆100

最初のDMデートから3日後、裕司は思い切って第3週の日曜日に麻理子を富士急ハイランドに誘ってみたら即オッケーの返事が来た。


自分の車、シルビア(オートマ)で調布駅まで迎えに行くと麻理子は上下デニムに長いピンクブラウンの髪をポニーテールに纏め普段のイメージと違う雰囲気であったが、それもよく似合っていた。
しかもインナーには先のデートで自分がプレゼントしたYAZAWA Tシャツを着て来てくれたのだ。


その後も裕司の誘いの殆どを麻理子は受けてくれ、時に麻理子のスケジュールが合わない事もあったが、そんな時も麻理子は違う日なら空いてると教えてくれるので二人は月に2~3回のペースで逢う事が出来た。
あまりデートを重ねるとプランを考えるのに困る物だが麻理子と裕司は趣味が似ているせいか、その方面では意外と悩まないで済んだ。
また、初デート以来、裕司はファッションにも、それなりに気を使う様になり日を追う事に垢抜けていった。

やがてツアーが始まり、いつもなら裕司は雄一郎と一緒に行く事が殆どなのだが、その雄一郎や敏広達、遥子が気を使ってくれてコンサートでも麻理子とのツーショットの機会に恵まれ仲間達から見ても麻理子と裕司は良い雰囲気なのが伺えた。

だが年が明けた1月中旬のある日。

「あんた達まだ付き合ってないの!?」
「う、うん………」

遥子の裏返った声に力無く頷く麻理子。

「お前……………マジかよっ!」

溝の口の居酒屋にて呆れ顔の敏広。賢治も脱力している。
「何やってんの?ホントお前」
「何って………」賢治の言葉に沈黙してしまう裕司。

その後、眞由美の店で行われる恒例の新年会でも、この話題が上り眞由美達を呆れさせた。

そして2月の第一土曜日。裕司は遥子に川崎OYHに呼び出された。
「こんばんは」
店内に入ると眞由美は勿論、遥子、拳斗、敏広、賢治が居た。
何か雰囲気が重苦しい。

「裕司君」と遥子が止まり木から立ち上がる。表情が怖い。
「単刀直入にお聞きします。麻理子の事、どう思ってますか?」
「えっ?」
「麻理子の事、好きですか?」
「…………」
「男でしょ!答えて!!」
珍しく語気を荒げる遥子にビクッとする裕司。
「は、はい…好きです……」
蚊の鳴く様な貧相な声。
遥子は大きな溜息を吐く。
「だったら、それをちゃんと麻理子に伝えてあげて下さい!」
「…………」
裕司は再び沈黙してしまう。
「お前まさか麻理子ちゃんの方から言って貰うの期待してんじゃないだろな?」
敏広の言葉に思わず狼狽える。どうやら図星の様だ。
「どんだけヘタレなんだよお前……」
「裕司君、ちょっと情けないわよ」
「自信が持てないんだな」
賢治、眞由美の厳しい言葉と正反対に何時に無く優しげな拳斗。
「でも、それじゃちっとも先には進めないぞ。その役目を麻理子ちゃんにさせるのは男として恥ずかしいと思わないか?」
「そ、それは……」
ここで店の扉が開いた。
「あら?何か物々しい雰囲気じゃない?」
真純が入ってくる。
真純は店内に居るメンツを見て何を話していたのかの大凡の見当が付いた。
「私の事は気にしないで続けて」
「いえ、情事さんからも何か一言、言ってやってください!」と遥子。
真純はハイネケンの瓶を片手にソファの方に移動した。
「なら、これまでの途中経過を聞かせて貰おうかしら」

遥子と敏広から詳細を聞く。
「自信が無いのね」拳斗と同じ事を言う真純。
「気持ちは判らなくも無いけど、いずれは白黒ハッキリさせなきゃならないのよ。ぬるま湯が心地良いのは最初のうちだけ。ハッキリ出来ないのなら麻理子ちゃんの事は諦めなさい」
「…………」
お通夜の様な沈黙が流れる。すると
「それなら裕司さんが自信を持てるシチュエーションを作ればいいんじゃない?」
買出しに行ってた愛美がいつの間にか裏口から戻ってきていた。
「シチュエーションってどんな?」と眞由美。
「それは私には判らない」
「裕司が自信持てるって言ったら……」
「やっぱ歌だよな?」
敏広、賢治の言葉に真純が何か閃いた。
「ねぇ!」
皆が真純に注目する。
「あんた達、YASHIMAを復活させなさい!」
「えっ!?」
「何よヤシマって?」と眞由美。
「前に話したじゃない!高校生で凄く上手いYAZAWAのコピーバンドが居たって!」
「えっ!それってアンタ達の事だったの!?」
眞由美もYASHIMAの噂は聞いた事があったがライヴを観た事は無くメンバーの事も知らなかった。
「でもそれがこの事と何の関係が……」と裕司。
「自信が持てるシチュエーションよ」
裕司の恋のバトンは遥子から真純に手渡された。

つづく

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