ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆095

廻りの視線が気になる。
パルコ前から駅のホーム、そして京王線の車中と何故か周囲の、特に女性からの視線を感じて裕司は落ち着かなかった。


「ねぇ、今日の俺、可笑しいかな?」と小声で麻理子に聞く。
「えっ?何処も可笑しくないよ」
「ホントに?」
「うん。可笑しい所か今日の裕司君、カッコいいよ!」
「えっ?そ、そうかなぁ?」
「あっ、ごめんね。普段はカッコ悪いって意味じゃないから」
笑う裕司。お陰で落ち着きを取り戻せたので、ここに至るまでの経緯を話し始めた。


午前中に4人に拉致され連れて行かれた場所が神宮前にある開店前のヘア・サロン。


「もしかして、アルテミス?」
「確かそんな名前だった!知ってるの?」
「うん。遥子の2番目のお姉さんのお店」


先頭を早歩きで進む遥子の後を敏広と賢治に引き摺られる様に連れて行かれる裕司。
「いらっしゃ~い」
「涼ネェ!お願い!」
「任せなさい!先ずはシャンプーね」
訳も判らずシャンプー台に連れて行かれ洗髪、タオルドライと手際良くスタッフの若い女性に施され鏡の前に座らされる。
すると先程、涼ネェと呼ばれた綺麗な女性が近づいてきた。
「初めまして。遥子の姉の涼子です」
鏡越しに素敵な笑顔を見せてくれる。
「あ、初めまして。汐崎裕司です」
「あまり時間が無いから早速始めさせて貰いますね」
裕司の髪にコームを入れカットを始める涼子。丁寧だが素早い。
いつもなら駅前の短時間、低価格の床屋で済ませている裕司はこうゆうサロンでのヘアカットは久し振り。
みるみる内に適当な髪型が良い感じにデザインされてゆき10分位で終了。
「はい!次はカラーね!」
明るめのブラウンに染められ、再びのシャンプーとトリートメント。髪を乾かすと今度は別室に連れて行かれた。
そこには2人の女性と1人のオネェ系の男性が居り壁には何種類ものメンズ服が掛けられていた。
3人とも涼子の知人で原宿でブティックを経営してる者達であり裕司は着て来た普段着や靴を脱がされ生身の着せ替え人形と化した。
3度目の試着が終わると「これよ!これがいいわ!」とオネェが叫び他の女性2人も同意する。
因みにこのオネエは裕司が試着中に事ある事に裕司の身体を触り捲くっていた。
服が決まると、またカットスペースに移動。眉カットと仕上げのスタイリングを涼子がやってくれ、ここに普段とはまるで違う裕司が出来上がった。
「お疲れ様」と笑顔の涼子。
「いいじゃない!ねぇ~すっごく素敵よぉ!」
いつの間にか背後に来てたさっきのオネェ。
裕司も鏡に映る自分を見て正直、俺って結構イケてるんじゃないかと思ったが、まだこの時点では自信が持てなかった。
裕司は背が高く手足もスラリと長くて顔も小さいモデル体型。
しかも結構なイケメンなのだが当の本人にその自覚が全く無かったのだ。
そして裕司は再び拳斗のランクルに乗せられ先程、調布駅パルコ前に放り出されたのだった。


話を聞きながらクスクス笑う麻理子。特にオネェの部分でよくウケている。
「そのオネェな人って小柄で目が大きい人?」
「そうそう!ギョロ目で色黒なオッサン!って知ってるの?」
「うん。ナンシーさん」
「ナ、ナンシィ!?」
名前と容姿のギャップに声が裏返る。
麻理子は遥子の紹介で高校生の頃からアルテミスで髪を切ってもらっており、そこでナンシーを紹介してもらっていた。
ナンシーは基本、女が大嫌いなのだが涼子や遥子等、一部の女性とは非常に仲が良く麻理子の事も気に入ってくれていた。
因みにナンシーの本名は山田一郎だが、その名で呼ぶと無視、或いはキレられ、また何故にナンシーなのかも謎である。
「いい人だったでしょ?」
「まぁ確かに悪い人じゃなさそうだけど・・・触りまくってくるからさぁ」
またクスクス笑い出す。
話を聞きながら麻理子は昨夜の遥子からの電話を思い出していた。
《そっか。こうゆう事だったのね》
仕組まれた事ではあるが腹は立たなかった。
そんな会話をしてる間に2人は電車を乗り継いで千代田線の赤坂駅まで辿り着いた。

つづく

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