自宅に居る麻理子の携帯が鳴った。遥子からであった。
「もしもし?」
「麻理子、今、話しても平気?」
「うん。大丈夫」
「あのね、裕司君から伝言を預かってるんだけど急用が出来たらしくって明日の待ち合わせ時間を1時間、遅らせて欲しいんだって」
「えっ?そうなの?」
「大丈夫?」
「う、うん」
「それじゃね。確かに伝えたから」
電話が切れる。
当然ながら麻理子は変だと思った。
何故に遥子経由で時間変更のお願いが来るのか?
裕司とは既に何度か携帯で、やりとりしているので本人から直接来るのが自然の筈。
だが同時に遥子が自分を陥れる様な事をする訳が無いので麻理子は考えるのを止めた。
そしてXデー当日 9:15AM 裕司の自宅前。
「そろそろ出てくる時間だな」
今、自宅を出ればトラブル等が無ければ10時には調布に着く。
ドアの奥から靴を履く様な物音が聞こえてきた。
「本当、時間に几帳面ね」
ドアが開き裕司が出てくる。
鍵をかけ門の黒い格子状の扉を引いたと同時に裕司は後ろに仰け反りそうになった。
「わぁっ!」
目前には拳斗、遥子、敏広、賢治の4人が。
「ど、どうしたのみんな?」
「・・・・・・・ハァーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
4人は裕司の姿を見て同時に深い溜息を吐いた。
グレーのパーカーにジーパン。不潔では無いが地味な事この上ない。
「どうみても、これからデートって男のナリじゃあねぇな」
「裕司君、優しいだけじゃ女の子の気持ちは掴めないよ!」
「大体お前そんな格好、麻理子ちゃんに失礼だぞ!」
「ここまで学習能力が無いとは俺も思わなかったぜ」
言いたい放題言われて普段は大らかな裕司も流石にムッとなる。
「な、何だよみんなしていきなり!」
「まぁ予定通り決行って事で」と賢治。
「えっ?」
敏広と賢治の二人に両腕を抱えられる裕司。
「お、オイちょっと!」
遥子がランクルの後部座席のドアを開け二人に車中に引き摺り込まれる。
ドアを閉めると同時にエンジンがかかり遥子が素早く助手席に乗り込む。
こうして裕司は4人に拉致られた。
11:50AM 調布駅パルコ前。
フロントに黒いリボンの付いた白のシフォンブラウスに淡いピンクのニットカーデ。ブラウンのグレンチェック柄のスカート姿の麻理子は着いたと同時に反射的に携帯を開き時間を見る。
特に着信等も無いので携帯を畳みバッグの中に入れようとしたが急な連絡が有る場合を考え手に持ったままバッグを閉じた。
日曜の昼という事もあり割と人気が多い。
また天気にも恵まれ日差しを避ける為に日陰に入ろうとした時、ロータリーに1台のランクルが走りこんできた。
「あの車・・・」
見覚えのあるその車が麻理子の目の前で停まる。
すると後部座席のドアが開き中から何かが勢いよく放り出された。
ドサッ!!
「っ痛えぇーーーーーーーーっ!!」
目前の光景に目が点になる麻理子。
ドアが閉まると同時に前後のパワーウィンドウが下がってゆく。
助手席から覗ける顔を見て麻理子は我が目を疑った。
「よ、遥子!?」
その奥には拳斗、後ろには賢治と敏広の顔もある。
目をパチクリさせてる麻理子に向って遥子達4人は親指を立ててニッ!と笑った。
そして走り去るランクル。
「あたたたた・・・・」
ここで麻理子の意識はやっと放り出された者に向いた。
「裕司君!大丈夫?」
駆け寄る麻理子。
「あぁ、うん何とかね」
「怪我は無い?」
「うん、ありがとう」
短く整った茶髪をソフトモヒカン風に無造作に立てタイトな黒ジャケにVネックのガールズプリントのロンT。程好くダメージの入ったデニムにダービーブーツとゆうロック系ファッションの裕司はフェンスを掴みながらゆっくり立ち上がった。
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