ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆132

一生懸命、書いたお手紙をクシャクシャにされ遥子は、その日、帰宅してからもずっと泣き続けた。

「また書き直せばいいじゃない」
「そうよ。また手伝ってあげるから」

優しく励ましてくれる二人の姉。

中々気持ちを切り替える事は出来ないが遥子はベソをかきながらも言われた通りお手紙を書き直した。

ただ、その日を境に遥子に対する苛めは無くなった。

寧ろ、女の子一人に泣かされた事で、いじめっ子達は完全に立場を無くしてしまい他の園児からも馬鹿にされる様になってしまったのだった。

だがそれでも遥子の内気な性格まで改善する事は無く手紙を渡せないまま遂に卒園の日を迎えてしまう。

すべてのセレモニーが終り、お庭にて名残惜しそうに談笑する父兄達。
その間を掻い潜って遥子は麻理子を探した。

《居たっ!》

これが最後のチャンス。だが身体が躊躇してしまい、どうしてもそこから先へと進む事が出来ない。

そんな時、麻理子が自分に気付いた。
目と目が合いドキッとする遥子。

すると麻理子はニコッと笑って手を振ってくれた。

「バイバーイ!元気でねーっ!」

あの日、初めて出会った時と同じ、とびっきりの最高の笑顔。

「う、うん!」

夢中で手を振り返す。

「また、いつか一緒に遊ぼうねーっ!」
「うん!ありがとう!!」

笑顔で手を振り返す遥子。そこに

「あの子が天使さん?」

母、響子が歩み寄ってくる。

「うん!」
「本当に天使の様な笑顔………」

響子も麻理子の笑顔に見惚れてしまった。

その時、麻理子は母親とは別の若い派手目な女性に抱きあげられ、はしゃいでいた。

ふと、麻理子の母、香澄と目が合う。
すると響子は姿勢を正して恭しく香澄にお辞儀をした。
一瞬、戸惑いの表情を浮べるも会釈を返す香澄。
そして麻理子は母と叔母の楓に手を取られ帰って行った。

「結局、お手紙、渡せなかったのね」
「うん………でもいいの!」
「えっ?」
「いつか……またいつか逢えると思うから」
「遥子…」

その時の遥子の表情は晴れ晴れとしていた。こんなにも希望に満ちた遥子の顔を響子は初めて見た様な気がした。


つづく

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