4月の最終土曜日。
ワインレッドのワンピースミニドレスに黒のファーボレロ姿の麻理子は指定された時間の5分前には府中駅南口に着いた。
送迎が来るとの事だが誰が来てくれるのか?人気が多い割にそれらしき者は見当たらなかった。だがその時
「山本麻理子様」
呼ぶ声の方に振り返る。
そこには髪をオールバックに纏めタキシードを着た眼鏡にチョビ髭の人物が立っていた。
「お待ちしておりました。私が会場まで御案内いたします」
「…………情事さん?」
ブッと噴出すチョビ髭の人物。
「な、な、何の事ですかな?私は情事なんて名でも無ければ真純なんて人も全然知りません!」
「は、はぁ…」
ツッコミ所満載なのだが麻理子は、それ以上何も言わなかった。
「ささっ!どうぞこちらへ」
誘導されると以前にも乗せて貰ったと思われるシーマの後部座席に案内される。
カーステレオからは♪Rockin’ My Heartが流れていた。
走り出して5分もしない内にシーマはある雑居ビルの前で止まった。
チョビ髭の人物が運転席から降りて後部座席のドアを開ける。
「会場はこちらの地下1階でございます」
エントランスからエレベーターまで誘導するとB1ボタンを押して麻理子を一人、乗せる。
ドアが開きエレベーターから降りる麻理子。
フロアの壁一面はビートルズがモチーフと思われる何種類もの絵に彩られていた。
「山本麻理子様ですか?」
入り口に立っていた蝶ネクタイの初老の男性が笑顔で出迎える。この人物は初めて見る顔であった。
「あ、はい」
「本日は御来店、誠にありがとうございます」
「いえ、こちらこそ」
この男性がリバプールの店主である。
「それでは御案内します。場内は理由があって暗くなっておりますので足元に御気を付け下さい」
麻理子からボレロを受け取り扉を開ける店主。言う通り中は真っ暗であった。
だが中に入ると左手、フロア中央部に丸テーブルとウッドチェアが一つずつ用意されており、そこの一ヶ所だけは天井からライトで照らされていた。
店主は麻理子の足元を懐中電灯で照らしながら中まで促すと椅子を少し引いた。
その椅子に腰掛けハンドバッグを膝の上に乗せる麻理子。
すると店主は麻理子の左側にバッグを置く為の椅子をもう一つ用意してくれた。
「それではお飲み物を用意しますので少々お待ち下さいませ」
店主がボレロを椅子に掛け立ち去ると今度は入れ替わりで若い女性がトレイ片手にテーブルにやってきた。
「山本麻理子様。先ずはお誕生日おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
女性はベネチアン・マスクを着けていた。隠れていない口の辺り、声の感じからすると愛美の様である。
テーブルにショートカクテル用のグラスが置かれシェーカーから中身が注がれると最後にブルーキュラソーが一滴沈められる。
「ダイヤモンドダストです」
「わぁ………」
ヴァージンスノーの様な艶やかなホワイトに淡く澄んだブルーが沈むそのカクテルの美しさに麻理子は見惚れた。
銀座の名バーテンダー草間常明氏が考案し、コンクールでもグランプリを受賞したカクテル。
4月の誕生石、ダイヤモンドに準えて、このカクテルがチョイスされた。
一礼してその場から立ち去る女性。
麻理子はグラスを手にし、ゆっくりと口元へ運ぶ。
「美味しい!」
コクがあるも優しい口当たり。そして爽やかな香りに酔いしれる。
すると先程の愛美らしき女性が今度はカートを押して再びやってきた。
カートの上には大きなバースデーケーキが乗っている。
「本日は貴女を愛する者達による様々な催しが用意されております。どうぞ最後までゆっくりお楽しみください」
中央にHappy Birthday dear MARIKOと書き込まれたチョコレートのプレートと色とりどりのフルーツが所狭しと並べられたケーキがテーブルに置かれる。
女性は年齢の数に関係無い数本のキャンドルに火を点すと指をパチンと鳴らした。
途端に照明が消され真っ暗になるフロア。灯りはケーキのキャンドルだけである。
「炎が消えると同時に全ては始まります。さあ、今宵、貴女を夢の世界へと誘いましょう」
その言葉に、いささか緊張気味の麻理子。
一度、深呼吸をして一気に吹き消す。
だが中々、消えず二度、三度繰り返す。
全ての炎が消え何も見えなくなる。
すると突然、前方だけがパッと明るくなると同時にパワフルなドラム・サウンドが鳴り響いた。
コメント
ワクワク 何のイントロなんだろう~~~ ドキドキ
Baybreezeさん♪^^毎度です
すみません間違い無く予想を裏切る曲でしょう
設定を重視した所以の選曲なんでご理解願いますm(__)m
>設定を重視した所以の選曲
じゃ~・・・あれかな? 楽しみだわ
Baybreezeさん♪^^
さあどの曲なのか
こうご期待って事でヨロシクです