「洋助さん」
「おぉ!婿殿!!」
「愛美さん!お父さん!」
ひしと両手を握り合う3人。
愛美はともかく影虎までもがこんなにも洋助に対して歓迎モードなのが眞由美には驚きであった。
「ちょっとアンタこいつから幾ら貰ってるのよ!」
「幾らってお前なぁ……」
「お母さん!」
「やっ、止めなさい!アンタなんか産んだ覚え無いわっ!!」
「そんな!愛美さんと結婚したら僕は貴女の息子も同然!」
東京本社勤務になって約二ヶ月。板についてきた標準語を話しながらカウンターの中へと入っていく洋助。
「ちょ、それ以上近づかないでっ!!」
眞由美は後退りすると背後の棚にあるグラスやボトルを手当たり次第、洋助目掛けて投げ付けた。
だが甲子園時代、フィールディングにも定評があった洋助はそれを見事にキャッチしてはカウンターに一つずつ綺麗に並べてゆく。
「そんな。水臭い。これもきっと何かの縁!お母さんと呼ばせて下さい!」
「だから私をお母さんと呼ぶなぁーーーーっ!!」
徐々に縮んでゆく二人の距離。
そして遂に追い詰められた眞由美。
「お母さん!!」
眞由美を見詰めながら、その両手をギュッと握りしめる洋助。
すると眞由美の身体はプルプルと小刻みに震えだし、その直後、泡を噴いて気絶してしまった。
ガクッ!
「きゃぁ!」
「ま、眞由美さん!!」
「ど、どうしましょ!?」
「こんなママ初めて見たわ」
「ワシもだ」
「ある意味貴重だな」
慌てふためく麻理子達とは反対に眞由美の身内はこの光景を何処か面白がっていた。
「お母さん!気絶する程、喜んでくれるなんて感激です!」
「違う違う違う!」
手を横に振りながら洋助のコメントを完全否定する遥子達3人。
「洋助。その辺で勘弁してやってくれ」
「押忍!」
実は洋助も小学校卒業までは野球と平行して空手を習っていた。
拳斗が両手をカウンターの上に置き、ひらりと飛び越え中に入っていく。
その大きな身体からは想像出来ない位に身軽である。
失神してる眞由美をお姫様抱っこしながらカウンターから出ると奥のソファに静かに寝かせてあげた。
「素敵……」
「憧れちゃいますよねぇ」
ナイト精神を発揮してる拳斗に思わず溜息が出る程ウットリしてしまう里香と麻理子。
「拳斗さんってホント、ママの事が好きなのね」
自分の事の様に嬉しそうな愛美。
「それじゃワシはそろそろ御暇しよう」
影虎は皆に改めて丁重に挨拶をし、洋助も一緒に帰って行った。
二人が去った後、愛美が入り口のプレートを『CLOSE』に裏返し内鍵を掛ける。
「店主が寝てちゃ商売にならないもんね」
ソファで横になってる眞由美の足元に座る愛美。
「ねぇ拳斗さん」
「ん?」
「どうしてママと結婚しなかったの?」
「……………長い話さ」
「まぁ、そのお陰で私は生まれてこれたんだけど」
カウンターの3人は、この二人の会話をいまいち理解出来ていない。
「あの~不躾な質問なんですけど~」
里香が遠慮がちに聞いてみる。
「拳斗さんは眞由美さんと、お付き合いしてどれ位なんですか?」
「ん…どれくらいだ?」自分でも把握していない拳斗。
「でも拳斗さんはママの一番最初の彼氏だもんねぇ!」
「えぇーーーっ!?」
先程の影虎と離婚後に付き合いだしたと思っていた3人は意外な事実に興味津々になった。
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