ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆146

慌ただしい1泊2日の沖縄ツアーであった。

ライヴ終了後はホテル近くの沖縄料理専門店で軽く食事をして部屋に戻り就寝。


翌朝は遥子の携帯がひっきりなしに鳴り仕事関連の通話に追われ帰りの時間まで那覇市内の観光を楽しむ事も出来ずに二人は空港へ向かった。

「ごめんねぇホントに」
「ううん。でも凄く忙しいんだね」
「一々私の確認なんか要らないのにホント最近の若手は使えないわっ!」

空港に到着すると二人は真純達へのお土産選びを楽しみ、その合間も遥子の携帯が数回震えた。

荷物を預け搭乗手続きを済ませ出発ロビーのベンチに腰掛ける。
遥子が携帯の電池パックを交換している間に麻理子は窓の外を見渡した。
空港である為に沖縄らしい景色は望めないがそれでも東京とは違う真っ青な空は何処か開放的でこれだけでも再び此処に訪れたいとゆう気分にさせられる。

「ねぇ、また一緒に沖縄に来ようよ。今度は夏に!」
「それこそ裕クンに連れてきてもらった方がいいんじゃなくて?」
「まーたそれ言ったぁ!」と膨れる。
「何よ!いつも裕クン持ち出してぇ!私と行くのが嫌なの!?」
「嫌な訳無いでしょう親友なんだから」と麻理子の膨れたほっぺをムニュッっと摘む。
「うにぃ」ちょっと痛い。
その時また遥子の携帯が震えた。
「沢崎さんだわ!ごめんねぇ、これは出なきゃ」
「うん」

後輩、部下からの電話だったら無視するつもりだったが上司の沢崎典子からの電話となるとそうもいかない。

「もしもし、お疲れ様です。はい大丈夫です」

立ち上がりロビーの端へと歩いて行く遥子。

麻理子はまた窓の外に目を向けた。

12月だとゆうのに何処か真夏の様な空。それを見ていると自然と麻理子の頭の中に様々な光景が浮かんだ。

白い砂浜にエメラルド・グリーンの海。そこで水を掛け合いながら燥ぐ自分と遥子。
ジェット・スキーに跨り颯爽と水平線を駆け抜ける眞由美と拳斗。
その後ろでウェイク・ボードを華麗に滑らせる愛美。またバナナ・ボートに跨りボヨンボヨンと波の上を跳ねている洋助の姿も。
一方でプールサイドにてトロピカル・ドリンクを飲みながらサマー・ベッドに寝そべる真純。
そして水着姿でYAZAWAタオルを肩に掛け下唇を突き出しながらビーチを肩で風切って練り歩く敏広、賢治、裕司の3人。

それを想像すると可笑しくなってクスッと笑ってしまう。

遥子と一緒、また裕司と二人きりで来るのも楽しいだろうが、いつもの仲間達が一緒だったらどんなに楽しいだろう。

そんな事を想像しながら楽しんでいると、ふと微風が麻理子の頬を撫でた。

《えっ?》

始めは気のせいだと思った。想像の延長による思い違いだろうと。だがまた風が吹く。

《ロビーなのに?》

空調では無い。確かにそれは自然な物であった。
夏の砂浜に佇んでいる様な錯覚を抱かせるその風は麻理子のピンクブラウンの長い髪をフワリと浮かせた。
同時に一陣の風が背後を通り抜ける。
反射的に後ろを振り返る麻理子。すると次の瞬間、一人の男が麻理子の目前を横切った。

《えぇっ!?》

麻理子は唖然とし我が目を疑った。
背の高い男のシルエットがスローモーションで進んで行く。
白い長袖シャツに白いボトム。だが何故か顔だけは影に隠れて見えない。
その背景には燃えるサンセット。ラハイナの風景。棕櫚の影。
麻理子の視線に気付いたのか男が麻理子の方に顔を向ける。
それでもサンセットのせいで陰ってしまって誰なのか判らない。
だが口元だけが緩んでいるのが確かに見えた。まるで麻理子に微笑みかけている様に。
そして男は夏の香りを漂わせながらBay Breezeと共に麻理子の目の前を過ぎ去っていった。

「麻理子、おーい麻理子?」

遥子に呼ばれて我に帰る。

「どうしたの?白昼夢でも観た様な顔をしてるわよ?」
「う、うん………」
「変なの」と笑われる。

まだボォーッとしてる麻理子。今、何があったのか。何が起きたのか。麻理子の思考回路は中々正常に戻らなかった。
そこで、また遥子の携帯が震える。

「今度は常務?」

再び遥子は席を外す。
麻理子は男が向かった先に目を向けた。
そこには騒々しい団体客や家族連れが居るだけで先程の男の姿は影も形も無かった。

「まさか…………ね」


つづく

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