転校してからも宏は栄太郎に手紙や年賀状を送ってくれたり栄太郎も送ったりと互いに連絡を取り合っていた。
だが高校生だった有る年、栄太郎が宏充てに送った年賀状が宛先不明で帰ってきてしまった。
それまでにも何度か住所が変わっていたので「こうゆう事もあるさ」と栄太郎は納得。こちらの住所は変わっていないので宏の方から連絡をくれるのを気長に待つ事にした。
それから栄太郎はバイトしていた事も有り貯金も増えグッズ熱も冷めてきた為に地方の会場にも足を伸ばしてみようと思い立った。
地方の熱気を肌で感じてみたいのと「もしかしたら何処かで宏に逢えるかも」と思ったのだ。
偶然を期待して地方に参戦。コンサートは勿論楽しかったが何処の会場に行っても宏らしき人物と出会える事は無かった。
「行き当たりばったりなんだからそうは上手くいかないよな」と毎回思い直し今年は何処の地方に行こうかと考えていた成人を迎える年の6月
何と宏の父から手紙が届いた。
何故に親父さんから?と不可解に思うと同時に妙な胸騒ぎを感じつつ封を開ける。
手紙を読み進めると栄太郎は自室で呆然と立ち尽くしてしまった。
翌日曜日
栄太郎は手紙の住所を頼りに鈴木家へと向かう。
突然の訪問であったが歓迎してくれる宏の両親。年老いたせいか、あの頃より二人が小さく感じる。
そして、まだ幼い宏の妹を紹介してくれた後に仏前へ。
言葉も無く宏の遺影と向かい合う。この時、不思議と涙は出なかった。
手紙によれば宏が高校1年の時、他校の生徒とのトラブルが発端で大規模な暴力事件が勃発。
宏も騒動に巻き込まれ、その際、相手の生徒数人に重傷を負わせてしまい、それが原因で学校を退学。少年院行きとなってしまう。
しかも生徒、保護者を含む学校側は全ての責任を宏に押し付けて問題を解決しようと図り居た堪れなくなった鈴木家はその街を去る事を決める。
丁度、栄太郎が送った年賀状が宛先不明で帰ってきた頃である。
その後、宏は模範生という事で2年弱で退院。新たに人生をやり直そうと思い立ち、高校には行かず「理由はどうあれ少年院の世話に成った。こんな身じゃあ永ちゃんや栄太郎に合わす顔が無い!」と自らの意思で海外にてボランティア活動を始める。
異国の地で精力的に働いている宏の写真入りの手紙が月に一度送られてくるのが鈴木家の楽しみとなった。
所が今から約一ヶ月前、宏は活動していた中東イスラエルで起こったインティファーダ(蜂起)に巻き込まれ、その若い生命を落としてしまう。
現地スタッフが回収し送ってくれた、銃痕で穴が開き赤黒く染まったYAZAWAのフェイス・タオルが事の酷さを物語っていた。
そして遺影には宏が最後に送ってくれた写真が使われた。
久し振りに見る親友の顔は自分よりも遥かに大人で漢らしく、だがその明るい笑顔には昔の面影を垣間見る事も出来た。
「9月になれば帰ってくる筈だったんだ………」
無念な表情で呟く父親の横で宏の母は啜り泣いている。
「帰国したら……帰ってきたら……栄太郎君と再会して………俺や栄太郎君と一緒に………永ちゃんのコンサートに行くんだって……」
父も涙で言葉を無くしてしまう。
栄太郎は無言で手を合せ目を閉じた。他にどうしていいのか分からず今はただ亡き親友の冥福を心から祈った。
帰り際、宏の父から「これを持って行ってくれないか」と、かつてDIAMOND MOONやコンサート会場の物販で使われていた黒い袋を手渡される。
反射的に中身を見る栄太郎。それは宏が最期に身につけていたフェイス・タオルであった。
「そんな!これは宏の形見じゃ……」
「親としてはこれを手元に置いておくのは辛いんだ。だからと言って捨てる事も出来ない…頼む!察して欲しい!」
涙で訴える宏の父。
「宏も………君に持って貰う事を望んでると思う………」
霧雨の中、傘もささずに田舎道を無言で進む。
幼い頃の記憶が自然と蘇ってくる。
年月で言えば僅か2年弱。
だがその短い期間、宏が栄太郎に与えてくれた物は他の何よりも掛け替えのない大切な思い出であり貴重な財産となっていた。
そして、またいつか再会して、あの熱気を、あのエキサイティングな空間を共に共有したいと思っていた。
宏が思ってくれていたのと同じ様に。
だが、それはもう叶わない………
「………Hurry up the midnight train…」
俯いたまま小声で歌い始める栄太郎。
「ネオンの街で……あの娘に会ったぜ……Oh Honey Bee…………
俺の胸の切ない……気持ちを………解って……おくれ………midnight…train……」
そして栄太郎は涙雨の中、大声で泣いた。
あの日、あの時、堪えた分まで。
コメント
あかんマジで泣いてまう
切ないですね
仕事前に読むと、涙で大変
大阪の永ちゃん狂い♪さん♪^^毎度です
今回は読者の皆様を泣かせるつもりで書きました
どうか泣いて下さいませ(笑)
ぺこちゃん♪^^毎度です
もっと切なさを強調したかったのですがオレ程度の文才ではこれが限界でした(笑)
願わくは号泣して下さいませ