ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆243

あっという間にアルバム全曲を聴き終えてしまった気がする。

リピートしようと立ち上がるも一度、書斎を出てキッチンへ。

コーヒーを入れる為に湯を沸かし、その合間にリビングに有るダンボール箱へと向かう。

昨年同様、沢山のバースデー・プレゼント。

バッグやキッチングッズ等の実用的な物からジュエリーに洋酒、フレグランス、アロマキャンドル等、真心と愛情が籠った品物を一つ一つ手に取り、贈り主の顔を思い浮かべては感謝の気持ちに胸を熱くさせる。

ただ、その中の一つである白い箱を重そうに取り出すと澄子はついつい苦笑してしまった。

それは開演前に剛健がわざわざ2階に迄来て渡してくれた物で中身は何とハブ酒であった。



「澄子さん最近お疲れの様だと聞いて沖縄からコレ取り寄せたんで是非、飲んで下さい!滋養強壮に効果覿面で自分もコレ飲み始めてからは、もう昼夜問わずビンビンで嫁も大喜び・・フグォッ!!」

この時、真純の掌底が剛健の顔面に炸裂していた。

「レディの前で何て話をしやがるんだお前は」



ライヴ終了後、眞由美の店で箱から中身を出しハブが丸ごと漬けられているボトルを見て皆で大騒ぎした事を思い出す。

そして最後に千晶からのプレゼント。取っ手にお手製のリボンが付けられたDIAMOND MOON製の艶やかな白い袋から中身を取り出す。

白地に黒いロゴのE.YAZAWAスペシャル・ビーチ・タオル。


「澄子さん来年このタオル持ってきね!一緒にタオル投げよっ!!」

千晶の笑顔を思い浮かべながら、ゆっくりと封を開け丁寧に取り出しては、そのタオルを広げる。

改めて、その大きさとデザインに圧倒される。

そして再び思い出される今日の情景。

この大きなタオルを肩にかけ永ちゃんコールを歌う拳斗や眞由美、多くのYAZAWAファン達。

同じ様にタオルを羽織りマイク・スタンドを握りしめ熱唱する裕司。

会場内を華麗に舞う色鮮やかなタオルの数々。

澄子は立ち上がって仲間達がそうしていた様に、そのタオルを自らの肩にかけてみた。

柔らかく心地良い肌触り。

気恥ずかしい様な気持ちを抱きつつも窓辺に映る自分の姿を身体の向きを色々と変えながら見てみる。

「ミィちゃん、どう?似合うかしら?」

出窓で丸くなってるミィに聞いてみた。

「フニャ?」

一度、澄子に視線を送るミィ。だが澄子の言ってる事が解っているのかいないのか、首を傾げながら我関せずとばかりに、また丸くなってしまう。

直後にピィーーーッ!と沸騰した事を知らせるケトルの音がキッチンから聞こえてくる。

コーヒー・ポットとカップを乗せたトレイを手に再び書斎へ。肩にはYAZAWAタオルをかけたまま。

アルバム全曲リピート設定にして着席。

再び始まる♪ゴールドラッシュを聴きながらカップにコーヒーを注ぐ。

YAZAWAの歌声とメロディに馨しい香り。まったりとした心地良い一時。

このまま音楽をを聴きながら夜を明かしたい気分になる。

先程は今日の感動的な光景が蘇ってきたが今度は自身のこれまでの人生の記憶が思い出された。

何不自由無い環境で育った少女時代。

思えば音楽と言えば父が好きだったクラッシック位しか縁が無かった。

それを思い出させてくれたのが今日のライヴでのオープニング。



「ツァラトゥストラ(はかく語りき)を持ってくるとは中々洒落た演出だったな!」と拳斗。
「あれは哲也さんの発案だったんですよ」
「今年、俺達も一緒に観に行ったドリーム・シアターの武道館公演の真似なんですけどね」


シュトラウス意外にもシベリウス、ワーグナー、メンデルスゾーン等が好きだった父、清高。

膨大なレコードのコレクションを当時、最新のレコード・プレイヤーに高級オーディオ・セットで鳴らしては自分を膝の上に乗っけて色々と聴かせてくれた。

その父の突然の悲報。

ガラリと環境が変わり父の自慢だったレコードもオーディオ機器も全て処分せざる負えない状況に追い込まれ以来、音楽とは全く無縁な生活を送る。

そんな中での雄一郎との運命的とも思える出逢い。

日々平穏だった夫婦生活。

特に趣味と言った物を持たず仕事と酒を飲む事以外に全く関心の無かった夫、雄一郎。

浪費とは無縁の人だったので貯蓄も自然と増えていった。

ただ、そのまま寝かせておくのもどうかと思い、兄の様な存在であった寺田謙と相談して自身も経済に強かった事もあり運用を開始。

物によっては元本割れをする事も有ったがトータルでは着実に増やす事が出来、晩年は謙の長男の徹の協力もあって雄一郎が定年を迎える頃には相当な財産を築く事が出来た。



「こんな大金、一体どうやって工面したんだ!?」

貯金通帳の額を見て驚愕する雄一郎。

「工面も何も、雄一郎さんが頑張って働いてくれた結果ですよ」

その言葉に只々信じられないという風に首を振る雄一郎。

澄子が資産運用をしていた事は知っていたが、まさか自分達がこんなにも金持ちになっていたとは。

「どうするんだ?こんな財産。ワシ等には相続させる子供も居ないし………」
「雄一郎さんのお金です。貴方のお好きな様に」

澄子は、もしかしたら、いつか夫が独立して自分の工場を持ちたいと言い出した時の資本金に役立てて貰おうと思っていたのだが当の雄一郎は、その様な野心さえも持ち合わせていなかった。

「とりあえず………家でも買うか」

定年を迎えたら当然、社宅からは出ていかねばならない。

それで現在の住まいを購入。それでも余り有る貯蓄であったが雄一郎は、それに溺れる事無く贅沢と言えば年に1、2回、二人で温泉旅行に行く位で、それ以外は以前と変わらぬ慎ましい日常を送っていた。

ただ一つ違った事と言えば、定年直前に夫が矢沢永吉にハマってしまった事であろう。

そして、それが後に自分の人生に迄、影響を及ぼす事に成ろうとは澄子自身、夢にも思わなかった。

つづく

コメント

  1. らきあ より:

    物語をよんでいると、情景が頭の中に
    鮮やかに写しだされます。
    まるで、澄子さんがそこに居るかのように。
    ゴールドラッシュ、イイアルバムですよね。
    私も家で一人でお酒を飲む時、結構聴きます。
    私の家の近くにもオープンユアハートの様な
    素敵なお店があれば週3回は通ってますね。(笑)

  2. AKIRA より:

    らきあさん♪^^
    再びの訪問&コメントありがとうございます
    出来るだけ読んで下さる方が情景をイメージしやすい文面を心掛けて書いてるつもりなので、そう言って頂けると嬉しいです
    眞由美の店は実は新宿の『洒場☆堕場』(シャバダバ)とゆうお店を参考にさせて頂いておりまして不定休なお店なんですが機会が有れば訪れてみて下さいませ
    またヨロシクお願いします

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