ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆248

澄子の四十九日法要を迎えたある日、裕司達、神崎夫妻のYAZAWA仲間は寺田兄弟の呼び掛けで神崎宅へと集まる事となった。

催事、納骨等を終え神崎宅のリビングに上がると程無く2人の中年男性が訪れてきた。

1人は司法書士、もう一人は行政書士との事で全員、揃った事を確認すると

「えぇーっ皆様、本日はお忙しい所、この場にお集まり頂き誠に有難うございます」

寺田護が改まって挨拶を始める。

「早速、本題に入りたいのですが、本日お集まり頂いた理由は、実は神崎御夫妻の財産分与に関する事でありまして………」

話を要約すると神崎夫妻の財産は澄子の生前の希望で寺田徹、護の二人が相続する事となっており同席している2人の男性は、公証役場より選出された証人で遺言書を含め、それ等、法的手続きに基いた結果を皆にお知らせする為にこの場に立ち会って貰ったと説明される。

ただ拳斗だけは、この件に関しても護の口から先日のライヴ前にて既に話を聞かされていた。

それで肝心の財産だが寺田兄弟は、それ等全てを自分達の物にする気は無く、あくまで例の『相続人』達が起こすであろう無用なトラブル、また、それ等に裕司達を巻き込んでしまう恐れの無い様、未然に防ぐための一時預かりという立場で考えが一致していた。

そこで二人は、その財産を自分達を除く裕司達で分与、平たく言えば山分けするのはどうかと提案。

しかし、誰一人その提案に賛同する物は居らず同時に寺田兄弟は「彼等は絶対に受け取らないだろう」と予想しており、結果その通りとなった。

それで第二の提案として赤十字や国境無き医師団等の慈善事業団体に全額寄付するのはどうかと尋ねると満場一致でこの提案が採択される事となった。

また、この家等の不動産、金融資産以外の財産に関する処分の手続きも寺田兄弟が一任する事で話は纏まり、事務的な話が終わると2人の証人は帰っていった。

「それから皆様には、もう少し御付合い願いたいのですが」

護がブリーフケースから大きな封筒を取り出す。

中から二つの封筒が出され内一つをペーパーナイフで丁寧に開封する。

「それは?」と拳斗。
「実は澄子さんから皆様へと充てられた御手紙を預かっておりまして」

敢えて遺言とは言わなかった護。便箋を一枚一枚確認する様に目を通す。

「僭越ながら私が読み上げていきたいと思いますので、どうか最後まで御静聴下さいませ。拝啓………」



この手紙が皆様の目に届く頃には私はもう、この世に居ない事でしょう。

最近、日に日に身体が衰えていくのを実感する毎日で、このままでは例え生き長らえたとしても矢沢さんのコンサートに行く事はおろか、自分で自分の事も出来ない様になってしまうのではないかと不安な日々を過ごしてます。

そうなってしまう前に親愛なる皆様に、きちんと御礼を述べたいと思いまして、この様な手紙をしたためさせて頂きました。

本当なら皆様一人一人に直接申し上げるのが当然の事だとは思うのですが、どうか御無礼をお許し下さい。

先ず、裕司さん

貴方が我が家に初めて訪れ、私の作ったお料理をとても美味しそうに食べてくれたあの日を私は今でも昨日の事の様に覚えています。

主人は、雄一郎さんは貴方の事を実の息子の様に思っておりまして私も貴方に出会えた事で子供の居ない私達に家族が出来た様だと夫婦揃って大変喜んでおりました。

真面目で頑張り屋の裕司さん、余り無理をせずに御身体大切になさって下さいね。

麻理子さん

私の為に今回のコンサートを提案して下さって有難う。

こんな事を書いては皆さんに怒られてしまうかもしれないけど、正直、矢沢さんのコンサートよりも楽しみに感じてしまい、その日が訪れるのを今か今かと待ち遠しく思っています。

優しくて笑顔の素敵な麻理子さん、裕司さんの事を宜しくお願いします。

真純さん

いつもランチやドライブに連れて行ってくれて有難う。
真純さんが連れて行って下さるお店は何処も美味しくてお洒落で、また貴女のお顔の広さにはただただ感服するばかりで御蔭様で交友関係に乏しい私も多くの人達と出会いお話する機会に恵まれました。

頼り甲斐が有って皆から慕われている真純さん、お友達の皆様や後輩さん達にも宜しくお伝え願います。

千晶ちゃん

私みたいなお婆さんにお友達の様に接してくれて、仲良くしてくれて有難う。

千晶ちゃんの元気な声とその笑顔に私もいっぱい元気を頂きました。

天真爛漫で快活な千晶ちゃん、これからも皆に元気を与えてあげて下さいね。

永悟君

いつも様々な場面で私に気配りをしてくれて有難う。

また永悟君と千晶ちゃんが喧嘩している姿は何とも微笑ましくて、その仲の良さを羨ましく思いました。

律儀で真っ直ぐな永悟君、これからも陸上、頑張って下さいね。

里香さん

お逢いする度にケーキやクッキーを作ってきてくれて有難う。

どれも美味しくてコーヒーのお供にと、ついつい食べ過ぎてしまい、また貴女の優しさが永悟君の様な良い子を育んでいるのだと思います。

優しくて気立ての良い里香さん、これからも永悟君と千晶ちゃんを見守ってあげて下さい。

眞由美さん

その節は主人の事を、そして近年は私の事を色々と気にかけて下さり本当に有難うございました。

主人は生前、真純さん、拳斗さん、そして貴女に大変感謝しておりました。

私も実際に貴女にお逢いして、その優しさ、思いやりの深さに敬服すると同時に夫婦共々お世話になりっぱなしで何も御恩返しが出来ずに申し訳御座いません。

心温かでお美しい眞由美さん、これからの益々のお店の繁盛を祈っております。

拳斗さん

眞由美さん同様、私共の為にさり気ない御支援、お力添えを頂き誠に有難うございます。

主人は貴方程、頼りになる方は他には居ないと申しており、大変信頼しておりました。

また私の家の周辺を拳斗さんの会社の方が警護して下さっているのを真純さんから伺っております。

本当なら、その方々にも御恩返しをしたい所なのですが口止めされているとも聞いております物で、この様な形でしか感謝の気持ちを表せない事をどうか御容赦願います。

紳士で頼もしい拳斗さん、経営されてる会社の御発展を願って止みません。またスタッフの皆様にも宜しくお伝え願います。

愛美さん

いつも美味しいカクテルで私を持て成してくれて有難う。

愛美さんの作ってるくれるカクテルはどれも美味しく主人もお気に入りだった様で私も実際に頂いて、お酒の楽しみ方を知る事が出来ました。

聡明で魅惑的な愛美さん、これからも美味しいお酒で多くの方々に幸せを届けて下さい。

洋助さん

いつも楽しいお話を聞かせてくれて有難う。

ユーモア溢れる貴方のお話は本当に面白くてお腹が痛くなる程、笑わせて頂きました。

愉快で遊び心に溢れた洋助さん、愛美さんといつまでもお幸せに。

それからYASHIMAの皆さん

私の為にコンサートを開催して下さるとのお話を聞いた時、これまで生きていて、これ以上の喜びを味わった事が無いと思える程に感激致しました。

リーダーの敏広さん

貴方が今回のコンサートの企画を一生懸命になって考えて下さっていると真純さんから聞き、感謝すると同時に私の為にそこまで頭を痛めて下さらなくてもと何だか申し訳無いとも思いました。

私は敏広さんとバンドの皆さんの、そのお心遣いだけでも大変、嬉しく思っております。

当日はどうか、いつもの陽気で思いやり深い敏広さんの雄姿を、皆さんが楽しく演奏されてる姿を観せて下さいませ。

賢治さん

主人はギターを弾ける貴方の事をとても羨ましがっておりました。

そのギターを聴ける日が近づいているのを楽しみに思いつつ筆を進めている次第です。

誠実で爽やかな賢治さん、当日は貴方の様に爽快で格好良いギターを聴かせて下さいね。

加奈子さん

色んな楽しい音楽の話を教えてくれて有難う。

音楽と言えばクラッシックをほんの少ししか知らない私に解り易くも楽しい例えで矢沢さんの魅力を語って下さり矢沢さんの唄に益々興味が湧くと共に皆さんのコンサートが更に楽しみに成ってきている今日この頃です。

可憐で愛くるしい加奈子さん、主人も脱帽していた貴女のピアノが聴ける事をとても楽しみにしております。


そして遥子さん

結局一度も御目にかかる事は出来ませんでしたが、その節は本当にお世話になりました。

主人は生前、遥子ちゃんの様な娘が居たらなぁと常々申しておりました。

どうやらお逢い出来る事は叶わないと思われますので、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

今は海外でお仕事をされてるという事ですが、御身体大切になさって頑張って下さいませ。


他にも述べたい事、皆様にお伝えしたい気持ちが沢山有るのですが、今は、これ以上の言葉が何も思い浮かびません。

ただ一つ、はっきりと言えるのは私は皆さんにお逢い出来て、矢沢さんの事を大好きな皆さんと短い間でもご一緒する機会に恵まれて本当に幸せでした。

雄一郎さんもきっと同じ想いだった事でしょう。

ただ、これは私が悪いのですが、もう少し皆様と早くお逢い出来たなら、あの時、嘘を吐かないでいたなら私も主人と一緒に、皆様と共に矢沢さんの唄を楽しむ事が出来たのではと後悔、反省している所です。

そんな私に親切にして下さり、私の為に様々な催しを開いて下さって皆様には本当に感謝してもしきれません。

最後になりますが、亡き主人に親切にして下さり、私にまで良くして下さって本当に、本当に有難う。

敬具



誰もが涙を流さずに聞く事等、出来なかった。

読み終えた護が手紙を丁寧に折り目に沿って畳む中、雄一郎と澄子の仲間達の嗚咽だけが悲しく響く。

徹も護も沈黙を破る言葉が見付からず、今はただ改めて澄子の冥福を祈ると同時に彼等の悲しみを共に共有する以外、成す術が無かった。

また、皆が帰宅の途に就く際に、もう一つの封書が真純に手渡される。

それは澄子が真純達に充てられた手紙を護に手渡した翌日に、ミカやユキ、ケイコにアヤ等、お世話になった真純の後輩達へと書かれた手紙であった。

後日、真純がミカ達を集めて朗読。

彼女達も涙無しに聞き続ける事は出来なかった。


つづく

コメント

  1. BayBreeze より:

    245-6-7-8 を読ませて頂きながら何度もこの小説のスタートのころに戻って繰り代えし読んでいます。
    2003 Rock Opera で初めてYAZAWA MUSIC とYAZAWA WORLDに出逢った麻理子さんの精神の遍歴というか深みへの成長の物語なんですね。
    2003年頃というと、2002年にACOUSTIC Tourと銘打ってYAZAWAさんは新しい扉を開けようと模索されてた頃ですね。
    ROCK OPERA  CLASSICⅡと、YAZAWAさんにとっての満足のいく世界が広がっていった一つのエポックの時代かもしれません。
    あの頃を振り返りながら、今この小説のこの章この頁を読ませて頂くと感慨もひとしおです。
    澄子さんの死と、悲しみを受け止め悼む心優しく温かく、礼儀正しい人々。
    麻理子さんが出逢う事の出来た全ての良きものによって紡がれていく彼女の人生・・・・
    最終章が間もなくスタートするのでしょうか? 待ち遠しいような淋しいような気持ちです。

  2. AKIRA より:

    BayBreezeさん♪^^いつもありがとうございます
    http://s.maho.jp/homepage/6ba89ec2cff34907/
    ド素人の、しかも国語力が御粗末な我が小説を、こんなにも楽しんで頂き光栄であるのと同時に恐縮してしまいます
    麻理子とゆう極普通の女性を通して永ちゃんと永ちゃんファンの魅力を表現したいと思って書き始めたんですがBayBreezeさんから頂く御感想は本当に励みになると同時にオレの文章力は別にして、永ちゃんと永ちゃんファンに対する自分の感覚は間違って無いんだと自信をも持たせて頂いております。
    今後に関しては、この場で申し上げるのは控えさせて頂きたいのですが内容には自信が有りますので楽しみにして下さいませ

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